私の旦那は……
NEO
第1話 始まり
「ほら、どうよ。『プロサロメテオオクワガタ』ゲット。レアよレア!!」
ここは王宮の中庭。基本的に王城は庶民にも開放されている。私の元に集まった5、6人のガキンチョ相手に、手にした巨大なクワガタムシを掲げて見せた。
「姫様すごい!!」
「どうやって穫ったんですか!?」
子供たちが目を丸くして次々に問いかけてくる。
「簡単よ。この木のてっぺんまで登って、寝ている所を捕獲!!」
ゆうに城の2階までありそうな木を指差して、私は胸を張った。
「こ、こんな高い木登れない……」
男の子に混ざって何名かいる女の子が、そんな事を言った。
「気合いと根性さえあれば登れるわよ。あとは……そうね。こうすれば!!」
私は磨き抜いた右ローキックを木に叩き付けた。すると、一気に虫の雨が降り注ぐ。キャーキャー言いながらも、子供たちは落ちてきた虫の採集に余念がない。たまに木のうろに大きな蜂が巣くっている場合があり、そんな木を蹴飛ばすと悪夢が訪れるので注意されたし。
「姫様~、国王様がお呼びです~!!」
せっかくの和みの時間を斬り割くような声が聞こえてくる。6人兄妹の末っ子など、通常はまず呼ばれる事はない。なにか面倒事であるのは確かだ。私は大きくため息をついた。
「それじゃ、みんなまたね!!」
子供たちに声をかけ、私は王城内へと向かっていったのだった。
「おお来たか。なに、話しは簡単だ。要するに政略結婚だ」
呼ばれて父国王に言われた言葉はシンプルだった。
「……はぃ?」
あんまりといえばあんまりな事に、私は思わず声を裏返してしまった。
「お前ももう24だろう。そろそろ結婚しないとな。嫁ぎ先は隣のイスタル王国だ。むろん、向こうからも嫁が嫁いでくる」
……つまりそれって。
「私は人質ですか?」
このプロサメテ王国とイスタル王国は、最近国境線を巡って小競り合いが頻繁に起きている。万が一戦争にならないよう、お互いに人質を交換といったところだろう。
「まあ、そうとも言うな。お前の結婚相手はあちらの第4王子だ。王位継承権は……まあ、ないだろうな。つまり、末席の王家同士の結婚となる」
……末席って。まあ、間違いではないけど、言われるとぐさっとくるというかなんというか。
「それで、相手はどんな方なんですか?」
私は父国王に聞いた。
「知らん。政略結婚なんてそんなものだ。形式だけだからな。さっそく明日出立だ。急いで荷物を整理しろ」
……ええ!? 急すぎる!!
「なんでそんなに急ぐのですか!?」
たまらず叫ぶと、父国王の答えは単純だった。
「向こうはもう出発したらしい。それも、馬車ではなく飛行船でな。こちらも飛行船の予定だが、急がねば遅れを取ってしまう」
……飛行船か。最近普及が始まった乗り物であり、まさに空を飛ぶ船である。乗るのは久々だ。それがまさか片道切符になろうとは。
「とにかく急げ。必要なものは粗方積んであるが、お前の私物には手を付けていない。なんでもいいから纏めるのだ!!」
「はい……」
心の準備はまだ出来ていないが、とにかく持っていく私物を纏めなくては。
こうして、ドタバタの結婚劇は幕を開けたのだった。
「ふぅ……」
甲板に出て風を浴びながら。私は何度目か分からないため息をついた。飛行船は船の胴体に浮かせるための巨大な風船をつけたようなもので、最後尾には巨大な回転翼が着いていて、それで進むようになっている。途中、イスタル王国の紋章が描かれた船とすれ違ったので、「こちら側」に嫁ぐ姫が乗っているはずだ。
「木登りして昆虫採取していた方が万倍マシね……」
「姫、イスタル王国の領空に入りました。あと2時間ほどで到着します」
甲板で作業していた乗員が声をかけてきた。
「あと2時間か。自由の身も……」
私は思わずポツリとつぶやいてしまった。政略とはいえ結婚は結婚。しかも、どんな相手かすら分からない。これで不安がないなんて言える人いる? いたら会ってみたいものだ。
そうこうしているうちに飛行船は進み、程なくイスタル王国王城にある飛行船発着場に降りたった。そう、ついに着いてしまったのである。さらば自由!!
なんとなく気が重い中、私はゆっくりと飛行船の乗降ステップを降りる。すると、目の前に綺麗な身なりをした7、8才くらいの少年が立った。
「ようこそ、イスタル王国へ。私が第4王子のアラムです」
……あれ、聞き違いかな。確か、私は第4王子に嫁ぐ……ええええええ!?
「あはは、顔に書いてあります。そう、私はまだ子供です。成人の儀も済んでいません。しかし、あなたは私の妻という事になります。意外な展開でしょうが、よろしくお願いします」
「あっ、はい。こちらこそ……」
あまりにも意外な展開に、私はそれしか言えなかった。あのバカオヤジ、ちゃんと調べろ!!
「この国の伝統で、結婚初夜は……えっと、言いづらいですね。なんというか男女の営みを行うのですが、私ではまだ無理なので代わりに話しましょう。お互い何も知らないのですから」
「はい……」
なんつー伝統だ。推定8才相手に何をしろと? 話しをしたいというのは大歓迎だ。お互いの事を知らねばならいない。
「では、さっそく部屋に行きましょう。あまり広くないですが、ご容赦下さい」
まだ頭の中の整理が付いていないが、促されるままに私は部屋に向かったのだった。
これが、私たちのなれ初めである。ムードもなにもあったもんじゃない。
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