2

 月影たちを乗せた飛空艇は、畑岡氏の誘導で佳織が入院した病院へ急行する。病院の屋上で月影、陽向、畑岡氏は降りた。


「短い間だったが、刺激的な旅だったよ。しっかりやれよ!」


 バルジットは、宙に浮いている飛空艇の扉から身を乗り出して大声で叫んでいた。月影と陽向はありがとうと叫んで手を振った。そのまま飛空艇は上昇して行き、雪降りの闇に消えて行った。


 月影たちは畑岡氏を先頭に病室に向かった。病院の中は必要最低限の明かりしかついていない。そして、静かだった。


 畑岡氏が止まり、扉を開けた。佳織の病室だ。中に入ると、母親の咲子と姉春香、そしてスーツを着た好青年がいた。おそらく佳織の恋人、高柳誠一だろうと月影は思った。


 ここに関係者が全員いるということは、草訳さんが言っていたように現実世界での問題を解決させたようね。ふん。だから、畑岡氏もすんなり私の言ったことを聞いたのね。


 佳織は静かに寝台で寝ていた。しかし、月影の目には黒いドリームストリームが佳織の体から溢れ出ているのが見えていた。


 かなり危険な状態だ。このままでは……。しかし、なぜ彼女がいない。月影が疑問に思った。


「もう一人の夢見はどこへ?」


 月影は畑岡氏に訪ねた。


「先生は佳織の中に入ったまま出て来てない」


 畑岡氏は言った。


「なぜ、中に。外で待っていれば……。テラス。篝火を」


「今、組み上げてる」


 陽向の組んだ火の灯る篝火の上から、月影は石けんのような貘の脂を小刀で端から削っていった。パラパラと舞い落ちる白い粉は、火に触れるとわずかながら炎を出して消えていく。まるでそれは線香花火のようだった。


「すみませんが、この火は私たちが出てくるまで何があっても消さないで下さい」


 月影が言うと、畑岡氏は頷いた。咲子はその火を見て、神に祈るかのように手を合わせていた。春香も同様である。


 と、誠一が突然立ち上がり、月影の前にたった。


「あの、佳織を助けて下さい。目覚めさせて下さい」


「……必ず。ここにいる全員のために。目が覚めたらおはようと言ってあげて下さい」


「はい」


「テラス、行くわよ」


 月影はトランクを持った。


「いつでも」


 二人は、佳織が寝ている寝台の横に立ち、目を閉じた。畑岡氏らは、ただ二人の行動を見ているだけだった。すると、月影の髪を止めていたかんざしの玉が光り出した。そして、月影の影が佳織を包み込むと、月影と陽向の姿が光の中に消えた。

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