第四章 夢路
1
月影と陽向を乗せたバルジット空賊団の箱型の飛空艇は、まもなく烏丸神社のある街の上空にさしかかる。街は真っ白な雪で覆われていた。通り抜けた雲が厚かったのは、そのせいだ。まだ、雪がしんしんと降っている。
烏丸神社に着陸すると、厚着をした烏丸と奈都子、連絡役をかってくれた彦さんが出迎えてくれていた。そして、もう一人。黒いコートをまとったふくよかな男。
飛空艇の扉が開くと、月影と陽向は降りた。陽向は、月影のトランクと自分の荷物を持って――。
奈都子とミチルがすぐ駆け寄って来た。
「泪ちゃん、テラス君、お帰りなさい。怪我はない? 大丈夫?」
「奈都子さん。ただいま。私たちはこの通り大丈夫。それにこれ」
月影は笑顔で貘の脂をミチルに見せた。
「手に入ったのか。まるで石けんだね。良かった。成果があったようだな、二人とも」
ミチルはいつもの優しい表情で言った。
「はい。これから私たちはすぐに佳織さんのところに参ります」
泪は、キリッとした真剣な表情で烏丸に切り返した。
「じゃぁ、この方に案内してもらいなさい」
烏丸がそう言うと、後ろから黒いコート姿の男、畑岡氏が現れた。月影と陽向は驚いた。
「なんで、あんたがここに?」
陽向は驚いた。
畑岡氏が言い難そうにしていたので、ミチルが説明し始めた。
「佳織さんの容態があまりよろしくなくて病院に入院させたそうだ。草訳さんが一人で夢見をしているようだが、限界らしい。それで最後の頼みが君らだと聞いて、迎えに来られたんだ」
ミチルがそう言うと、畑岡氏が頭を下げた。
「申し訳ない。あの日、追い返してしまったことはこの通り謝る。すまなかった。謝礼はいくらでも払う。だから娘を助けてくれ。この通りだ」
また頭を下げる畑岡氏。
「いまさら……」
「分かりました」
月影はそう言って陽向の発言を止めた。そして、続ける。
「もちろん佳織さんは助けます。お金なんていりません。その代わり私の頼みを聞いて下さい」
「もちろんだとも。何でも聞く」
畑岡氏は言った。
「佳織さんの目が覚めたら、佳織さんの話を父親として聞いてあげて下さい。これが私の頼みです」
「……わかった」
畑岡氏は月影の言葉を心に刻み、目をグッとつむった。
「もし、そうしなかったら、あなたの夢に私が悪夢となって出ますので」
「男に二言はない」
「では、病院に急ぎましょう。テラス」
月影はそう言って、歩き出した。
「待ちなよ、嬢ちゃん。急いでるんなら、乗って来な」
バルジットがそう言って、飛空艇を指した。
「艦長! お願いします」
月影は頭を下げた。
「たやすい御用よ。オキーフ、すぐ出発だ。関係者はとっとと乗ってくれ」
「送り届けたら、終わりじゃなかったのか?」
彦がバルジットに声をかけた。
「ついでだ、ついで。もうこれで土とはおさらばだ。じゃーな」
彦にそう言って、バルジットは飛空艇に乗った。月影、陽向が乗り、そして畑岡氏も乗った。飛空艇の動力が動き始め、雪が舞い上がる。
「乗っちまったよ、あの人。船を落とはしないだろうか?」
彦が冗談まじりに言った。
「昼間の顔とは違うから、大丈夫ですよ。一国の政治家にも情があって良かったよ」
ミチルは言った。三人は、雪の中飛び行く船を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます