20

 ファミレスを出た佳織と誠一は、歩いて誠一の家に向かっていた。佳織はファミレスを出た時点で既に眠気に襲われていた。外の寒さがその眠気に対抗する手段であった。


 誠一の家は、オートロックのあるマンションの五階にあった。一人暮らしにはやや広めの部屋だ。リビングとは別に寝室にあてている部屋もあり、とてもきれいに整理された部屋作りだ。


 誠一はすぐに居間の電気暖房器を始動させた。佳織は眠気からか、しゃがみ込んでしまった。立っていることはできないようだ。


「佳織、寝るならコート脱いで寝室に行こう」


 誠一がそういうと、佳織は首を振った。


「わたし……まだねむくない。せいいちさん、ここにいて」


 と、隣に来るように床を叩く。


 誠一はわかったよと言って、佳織の隣に行くと佳織の着ているコートを脱がした。佳織も特に嫌がるそぶりを見せることはなかった。


 が、そのコートをハンガーにかけている時だった。佳織の様子がおかしくなったのだ。


 先ほどよりさらに顔色が悪くなっている。それにあれだけ眠そうにしていた佳織の目が、しっかりと開きずっと正面を見ている。誠一がその方向を見ても何もない。


「どうした、佳織」


「いやー、来ないで」


 突然、叫びだす佳織。


「佳織?」


 誠一がすぐに駆け寄り肩に手を置くが、佳織は誠一を気にすることなく正面を見て手足をばたつかせている。後ろに下がろうにも壁でそれ以上、下がれない。佳織は自分のそばにあった自分の荷物を投げつける。しかし、ただ空を舞って床に落ちるだけだ。そして、荷物の中身が散らばった。


「佳織、佳織。どうしたんだ?」


 誠一が問いかけても、目が合うことがない。


 佳織の目には誠一ではなく、顔と体が熊で背中に羽の生えた獣が映っていた。一歩一歩佳織に近づいてくる。


「いやいや! こっちに来ないでっ!」


 佳織にしか見えていない獣は、手を広げて佳織の頭つかんだ。すると佳織の身体からドリームストリームが発生し、佳織は動かなくなってしまった。


「……かおり」


 誠一にも佳織が光っているのが見えている。


 獣はしっかりつかんだ佳織の頭を上へ引き上げると、佳織の中からもう一人の佳織が引き出されたのだ。引き出された佳織を連れ、獣は歩き去っていく。


「わたしを……かえして……」


 佳織は消えゆく獣に向かって言う。獣が消えると同時に佳織の目は閉じ、意識を失った。


「佳織! 佳織!」


 誠一は何度も声をかけたが佳織に何の反応もない。すぐに救急車を呼ぼうと思って立ち上がった。床に散らかった佳織の手帳が目に入る。そうかと思い、誠一はすぐさま手帳の中からファミレスで見た名刺を取り出しそこに書かれた電話番号にかけた。

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