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車から降りた月影は寒空の中、トランクを持って歩いていた。向かう当てもなく、大通りを駅方面になんとなく自問自答しながら足を進める。
着物姿が珍しいのか月影とすれ違う人たちは必ずと言っていいほど、月影に視線を送り感想を心の中で思うのであった。
着物を着た催し物でもあったんだろう。
この辺りに京屋敷なんてあったっけ?
結婚式か卒業式の帰りだ。でも、それにしてはちょっと色が……。
月影は周りの視線を気にすることなく、ただ下を見て歩いていた。手が冷たい。車から降りたことを少し後悔したが、その気持ちもすぐ消えた。
現実世界の対象に用はない。結果的に対象を悪夢から救うことが出来るのであれば、問題ないことだ。ふん。昨日からずっとこんなことしか考えていないのか、私は。
ふと、顔を上げてみると駅前の家電量販店の前を通り過ぎようとしていた。人々は右往左往し、宣伝の音が騒がしく聞こえてくる。ビルの壁に設置されていた巨大映像画面に多くの記者に囲まれた畑岡氏が映っていた。月影は無意識に足を止めていた。
今日成立した不審飛空艇取り締まりの法に関する畑岡氏の発言を中心に放送されていた。
実際に会った人物が画面の中にいると不思議な感覚だ。向こう側がすべて虚構世界のように思えるのはなぜだろうか。苦しんでいる娘がいるようには見えない畑岡氏の言動。
ふん、私には関係ないこと――。
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