4

 夕食が終わり、お茶を飲んでいる陽向とミチル。月影は、ただ時計の音を聞いていた。


「ところで二人とも。今日、これから言ってもらいたい所がある」


 湯のみを置いたミチルが言った。


「仕事ですか?」


 ミチルを見て聞く月影。


「あぁ」


「また羊だったりしてな」


 冗談めかして言う陽向。


「羊かどうかはわからんが、やっかいな依頼になりそうだ」


「なーに、泪と俺でちゃっちゃと片付けてすぐ帰ってきますよ。なぁ、泪」


 月影は当然と言わんばかりに頷いた。


 ミチルは懐から紙を取り出した。そこには依頼者の名前と住所、手書きの簡易地図が書かれていた。


 陽向はすかさず住所を見た。


「ちょっと遠いな。駅から歩くのもしんどい場所だ」


「場所は我慢してくれ。依頼者は対象の母親」 


 ミチルは昼間、咲子と話したことを二人に聞かせた。


「家柄がなんだろうと私には関係ないわ。あるのは対象の悪夢のみ。望むなら、みんな静かに眠っていて欲しいわ。準備するわよ、陽向」


 そう言って、立ち上がる月影。


「あいよ」


 泪が自ら立ち上がって、夢見をしに行くようになるとは。ミチルは居間を出て行く月影の背中を見ながら思っていた。


「あ、二人とも。どうやって、その場所までいくつもだ。私が車で送るぞ」


「それは助かぁ……ア――っ、思い出した」


 陽向はポケットから飛空艇操縦免許証を取り出した。


「どうかしたのか?」


 月影が立ち止まった陽向に声をかけた。


「そうだ。これ、車も運転できるんだった! 今、思い出した。アハハハ!」


「普通、別々ではないのか? そもそも空に車があるのか?」


「あった……と思う。んー、どっかの空中都市の移動は車だった記憶が……」


「しかし、それが地上で使えるものかはわらんぞ」


「はて、使えるはずだぞ」


 そう言って来たのは、炬燵でお茶を飲んでいたミチルだった。続けて、


「空に詳しい知人が言っていたぞ。十八才以下でも車の運転ができてしまうことが問題になっているようだ。まだ法律で明確に規制されてはいない。一部で騒ぎが起きているのも事実」


「じゃぁ、俺が運転しても問題ないわけだ」


 陽向はニタリと笑顔を見せた。


「陽向。車の運転が許可されているのと、車を運転できるとには大きな違いがあることに気づいているのか?」


 月影がきつく言いつけて来た。


「なぁーに、大丈夫だって!」


 また陽向はニタリ顔を見せた。


「呪いで苦しんだまま死ぬのか、事故死か。さて、どちらが先だろうな」


 月影は腕を組んだ。


「では最初に私がテラス君の運転を見よう。境内から何事もなく出せるかどうか。それで判断しよう。二人とも準備をしてきなさい」


 ミチルがそう言うと、陽向は、


「問題ないと思うんだよなぁ」


 どこからその自信が湧いてくる。月影は内心陽向に突っ込み、居間を出て行った。


 今日は、月影にあまり負担をかけさせないようにしなきゃな。陽向は先を行く月影を追いかけた。


「いつになくやる気だな」


 陽向が近づいて来たのに気づき、月影は言った。


「それはお互い様だろ。あまり泪に負担かけたくないからな」


 月影は特に反応せずに部屋の中に入って行った。


 準備と言っても既に整っている。月影が夢見として使っている道具は、部屋の隅に置いてある革製の四角いトランクに入っている。


 唯一入ってないのは、髪をまとめ上げている月の玉かんざしだ。ちゃんとあることを手で確認する。かんざしさえあれば、事足りることがほとんどではあるのだが。


 壁にかかっている上着をはおり、トランクを持って部屋を出た。

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