この麗しの女神様に賞賛を!

風祭

第1話 お酒を隠した犯人に天罰を!1

私の朝は日が十分に昇ってから始まる。今日は土木のバイトも八百屋のバイトも無い、クエストだって入れていない。まさに、完璧な祝日なのである。だからこそ、このベッドの下に隠しておいた……………隠して、おいた。……隠しておい……おい…た…あったはずなのに…えっちょ、待って…私の…私の………

「私のお酒どこよぉぉぉぉおおおおおッ?!」


私は水の女神、アクア。アクシズ教団の御神体であり、本物の女神様!そして麗しのアーク・プリーストなのである。そう、そんな私が朝から慌てるだなんてそんなことはあり得ない…わけないでしょ!

「ない!ないないないっ!私の大切な…大切なお酒が…ないっ!」

笑えない冗談、私の大切な高級酒を誰かが隠してしまったのだから。もうこれは天罰を受けるに値する罪である。急いでお酒を探さなければ…そう、冒険者の佐藤カズマに気がつかれる前に––––

「で、お酒がどうしたって?」

「私のお酒がないのよ!カズマ知らない?…………あっ。あっ、あ…えっと…御機嫌よう、カズマさん?」

き づ か れ た 。彼は汚れのない純粋な笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。それはもう某国の菩薩を思わせるかの如き慈悲深い笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。きっと彼のことだ笑って許してくれるはずだ許してくれるはずだ許してくださいお願いします本当に悪気はないんですつい出来心で美味しそうだったから買っただけで本当にお酒一口分けてあげますから許してくださいなんでもしますからぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!

「今、何を考えていたのか当ててやろうか駄女神?」

「結構です………」

私の朝は日が十分に昇ってから優雅に始まることはなく、今回は不満を募らせた冒険者の説教から始まったのである。


「それで、結局のところ買った酒をベッドの下に隠しておいたのに朝になってから調べてみると無くなっていた、と。相変わらずズボラで間が抜けている女神様ですねぇアクア様は」

酷い言われ様である。私は悪くないのに…

「今、悪くないとか思ってなかったか?元はと言えばお前が秘密で酒を買って無くすっていう自分自身の不始末そのものだろ!そもそも、買ってきたならそう言って堂々どしていればいいだろ」

「でも、カズマ絶対怒るでしょ?」

「当たり前だ」

即答。どの道怒られるなら秘密にしておいた方がいいに決まってる。この下衆な匂いを漂わせた冒険者こそが私を女神落ちさせて異世界に道連れにした張本人なのだ。

「おい。今在らぬ誤解を生み出す様なこと考えてただろ」

「勘が鋭い。こういうタイプの男はきっとモテないしなんだかんだ言ってる間にモンスターにやられるのよ。本当に哀れよねプークスクス」

「誰に向かって言っているのか分からないが、口に堂々と出して罵倒してくてたな?アクア、今日の晩御飯は抜きでも怒らないで貰おうか」

「へ、え?…私何も言ってないと思うけど…って、ちょ…やだカズマさんったら目が座っていらっしゃる…。オホホ…聡明な冒険者様がそんな非道で人を人とも思わぬ極悪人の穀潰しがやりかねないことをするなんて私全然思ってないから思ってなんていません本当ですだから晩御飯抜きはやめてください序でにお酒も探してくださいお願いしますかじゅましゃぁぁぁぁぁあっ!」


この女神もとい、駄女神は直ぐに泣く。そしてご覧の通りとてもダラシなく酒飲みで欲深いまるで中年の男性を思わせる悪い見本だ。過去に起こした問題も数知れず、大体の借金地獄の原因はアクア。事件に巻き込まれる理由もアクア。もう既に女神というより疫病神なのではないか。異世界転生の際、この女神に一泡吹かせる為に道具として連れ込んだは良いものの…いや、良くない。だったら流されることなく無敵の体だとか、最強の剣だとか魔王すら一撃で葬れる魔具だとか…チートアイテムを貰っておくべきだったと自分で自分を殴りたくなるくらいだ。しかも?今回は自分の酒をベッドの下に隠しておいて?それを無くした?流石に頭が痛くなる。いや、元々コイツの後処理を考えるたびに頭痛には悩まされていたものの此処までズボラとなるともう手の施し様もないだろう…泣きたい。泣き噦る彼女を尻目にこうなってしまっては仕方ない、と骨を折ることにした。

「分かった、分かったから泣くのはやめろ?じゃなきゃ探すことを手伝わな––––」

「それで何処から探すの?」

コイツ一発殴っても許されるよな?此れが駄女神の真骨頂でもある。よく覚えておくことを推奨しよう。最後に泣くのはアイツじゃない、受け持ってしまった人間なのだから。

「台所を探す。どうせお前のことだ、寝る直前に台所にでも運んで置いたまま風呂に入って寝たんだろ?」

仕事後の風呂と食事を楽しみにしているコイツだからこそ、そうとしか思えない。文句が言いたいのはその表情でわかる。見た目はそこそこなのにこの性格。何かあると直ぐに感情を露わにするあたりが子供の様に無邪気、もう少し冷静さを保ってくれれば少しはマシに見られるだろうに。非難の視線を無視しつつ平凡で安らぎのある休日が音を立てて崩れていくことを察した。

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