春の贈り物
春田康吏
第1話
雄太には、もうすぐ弟か妹が出来る。
パパやママは毎日のように、今度は男かな女かなとか着せる服はどうしようかとかすごく楽しそうに話している。
「雄太、こっちに来てママのお腹をさわってごらん」パパはそう言ったけどぼくは、
「いい!」と言って突っぱねた。
でもパパはそれ以上、何も言うことなくママのお腹に耳を当てて、
「あっ、また動いた。よく動くからやっぱり男かな…」とつぶやいた。
そんなやりとりが、ここ最近ずっと続いている。
そして、ある日の朝。起きたら、隣で寝ているはずのママがいなかった。
代わりにおばあちゃんが来ていて、
「ママはね、病院に行ったよ」と言った。
ぼくはびっくりして飲みかけの牛乳をこぼしてしまった。あっ…
「もう、雄太ももうすぐお兄ちゃんになるんだからしっかりしなきゃね」とおばあちゃんは言うとさっさと片づけてしまった。
何だよ、みんなして…。ぼくのことなんかどうでもいいんだ。
だけど口には出して言えなかった。
「遊びに行ってくる」とだけぼくは言うと、外に飛び出した。
走っていると春の暖かな風が吹いてきて、いろんな花の匂いがした。
そして気がつくと、いつもの公園に来ていた。
そこには桜が咲いていて、花びらの薄いピンク色と真っ青な空の色とがあわさって、とてもきれいだった。するとまた風が吹いてきた。
桜の木はざわざわと揺れ始めると花びらの雨を降らせた。
ぼくは、降ってきた桜の花びらをそっと手でつかむとそのままズボンのポケットに入れた。
夕方、パパが帰ってきてみんなで病院に行くことになった。
「かわいいから、きっと雄太も大好きになるぞ」それはパパだけだよ。ぼくは思った。
病室に入ると、ママはベッドにいた。にっこり笑うとぼくを呼んだ。
「雄太、心配かけてごめんね。いい子でいてくれたみたいだね」そう言って、ぼくの頭をなでた。
ぼくは少し恥ずかしくなって横を向いた。
するとそこには、スヤスヤと眠る赤ちゃんがいた。
「雄太の妹だぞ」パパもにっこり笑って言った。
ぼくの妹は本当に気持ち良さそうに眠っていた。
その顔をじっと見ていると、ここに来る前の嫌な気持ちは、だんだんなくなっていった。
「そうだ」ぼくは、ポケットに手を入れると、昼間とってきた桜の花びらを取り出した。
そして、そっと妹の横に置いた。
「まあ…」
「おおっ」
「あらっ」パパとママとおばあちゃんは同時に声を上げると急に笑い出した。
「どうしたの?」
「ううん、実はね、この子の名前「さくら」にしようかと思ってるの」
家族みんなのとびっきりの笑顔がそこにはあった。
春の贈り物 春田康吏 @8luta
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