第11話:ユリアのはじめてのおつかい!
「それで。どうして私はこの服が着たいというのになぜ。あなたが差し出している物を着ないといけないのかしら?」
今日から冒険の旅が始まりました。そう、今日は栄えある記念すべき最初の1日なのです。
それなのに、私は何故にこのような事で冒険の最初の一歩を躓かないといけないのでしょう? このような物を着て街に出たら赤っ恥をかかずにはいられないわね。行き交う人達の周囲から向けられる冷たい視線に対し、私は耐えきれる自身がありませんわ。
話題を変えましょう。
私が頭を悩ませ居る理由は、目の前で今にも泣きそうな表情を浮かべているメイドの美少女に原因があります。
メイドのシャルロッテがなんの手違いなのか、きれいな花柄の刺繍や胸元を華やかに演出するフリルがついた純白色のドレスが用意されていたのです。しかもご丁寧に生花のブーケまで用意されているのです。私、今から誰かと結婚式にでも登壇するのかしら……? 昨日の夜に確か私はお父様からお許しを得たはずなのですよ?
それを私に着ろと、ひどくせがんできているのです。厚かましいことに対して私はどう彼女に諭せば理解してくれるのかについて慎重な言葉選びが要求されております。彼女の機嫌を損ねればもといい、この色ぼけメイドことシャルロッテはどうやら、私の花嫁姿をみたかったらしいですわね。冗談にも程があるわよシャルロッテ。
彼女が胸元手前で持つ花嫁衣装を見ての率直な感想は、間違いなく私は、この作った人の思いが込められた逸品だと目利きしております。いろいろな視点から観察をしていく内に確信しました。腕利きの職人の仕業ね。侮れないわ。
「ねぇ、これは誰が作ったのかしら?」
「えっとですね……その……」
何やら言葉に詰まった様子で気恥ずかしそうにしているシャルロッテ。これは勘だけど、うーん。確信がないので当ててみるのは止めておきましょう。もう少し情報が欲しいですわね。
全体的に芸術的なドレスから見受けられたのは『純愛が実りますように』とか、『恋に悩まされ、恋に堕ちる』とか、はたまた『エッチなロリビッチに祝福を!』――って、なに自分でロリビッチとかいってるのかしら……おかしいわね。
それはともかく。涙目で訴えかけられては致し方ないわ。ここは主人の情けですわね。まぁ、結婚はもう数十年に見送られたことだからせっかくの機会ね。自分のステキな姿をこの目で拝んでみようかしら。
誰かの哲学書に書いてありましたわね。『君子危うきに近寄らず』。わざわざ危ない所に行かないのが主人として当たり前。なのに哲学書ガン無視の事をしている私は君子でもないわね。
そうこうしている内に彼女からドレスを受け取ろうとして、自分で着替えるつもりでした。
「隙ありですッ!!」
「えっ――きゃぁあああああああああ?! なっ、ななな何するのよッ!?」
「あぁん!! かぁわぃいいいい!!」
「ヒッ!?」
それはあっという間の出来事でした。
初めに私は目の前が真っ白で覆い尽くされてしまいました。ドレスが目の前で目隠しをしてきたのでしょう。次にシャルロッテの顎のラインが見えましたかと思いきや、彼女はいきなり目をキィピーンと光らせ満面のニンマリとした笑みを浮かべ、無防備の私を隙ありと言わんばかりに、一閃の如く無駄のない動きで、私が来ていたバスローブを、まるで某悪代官のように帯ひもをスルリと引き寄せるように掻っ攫いたぐり寄せ、そのままローブをスカートめくりの要領であっというまに私が来ていた服をキャストオフしてしまったのです。ライダーキックは出来そうにないです。足が上げられないのです。シャルロッテの顔に一発お見舞いしたかったです……。
もちろん私は全裸です。下着など着けておらず、シャルロッテが鼻を伸ばして興奮しているのを目の当りしてしまいました。……変態。
思わず反射的に悲鳴を上げてしまいました。熱の籠もった羞恥心が、私の冷静な心をかき乱しております。
シャルロッテは目の据わった発情した雄の眼差しを私に向けております。心の中では麗しき乙女の心に戻って頂戴と懇願する私。この有様をひどく悲しんでおります。無理矢理脱がされるなんて聞いておりませんでした……。
バスローブを脱ぎ取られてしまった私は、自身のコンプレックスである、おうとつの無い、まな板の胸を必死に腕で隠すようにしてしゃがみ込んでおります。
私のプライドが傷つけられてもう、自分でも無意識の内に目尻に涙を溜めてウルウルと半泣きの表情を浮かべていました。
悔しいけど認めるしかないわ。私は身体の成長がうまく育たなかった。実に残念なことだわ。とにかく結論を付けて冷静さを保ちましょう。その方がまだ傷の方が浅くなるはずだわ。
「あぁあん!! お嬢様の素敵なお体を今日も拝見できてこの私ことシャルロッテ。心からお喜びを申し上げます。そして末代までの宝とさせてい・た・だ・き・ま・す。キャハッ!」
「こっ、こここのエロボケ馬鹿メイドぉおおおおおおおおおお!! 許さないわッ!!」
「あぁああああん!?」
子供のように大はしゃぎする彼女の脚を引っかけるように私は転倒させました。そのまま力の限りにかかとで彼女の頭部を踏みつけます。
「朝っぱらからなによこの変態ッ!! 馬鹿メイドッ!!」
「いやん! こんな気持ちいいことをしていただけるなんて感激ですぅ!!」
「うるさい!! 私はそんなつもりであんたの頭をかかとで踏みつけているつもりは毛頭ないのよ。この馬鹿!! 変態!! ロリコンッ!!」
「あぁ、耳まで心地よく感じてしまいます!!」
「うぅう……!! もう知らないッ!!」
私は目尻に涙を溜めたまま、シャルロッテを踏みつけながら、床に落ちてしまった花嫁衣装を手に取って着用しました。それから部屋を後にしようとしてドアノブに手を掛けた瞬間に、私は最後に大事な履き物を忘れていたことに気づきました。
パンツを履いていなかったわ。
「おっ、お嬢様がご乱心に……はぅ……素敵……」
「駄目だわこの子。もう手が終えないわね……うん……」
放心気味に身体をビクつかせてノックダンで横になったままのシャルロッテは放っておきましょう。扉から離れた私は、クローゼットを開き、その中のチェストのどこかに下着があると思いまして、適当にあさりました。
さらりとした布地の感触を手の感触で確かめつつ、目では見えない高さにあった下着を選別します。
「んっ……よいしょ、これがいいわね。指先で摘まんだ感じ、レース状のショーツのようね」
私は目をつむり笑みを浮かべつつ、その手に取ったパンツを両手で広げまし、それから目の前でそれをまじまじと見つめました。私は一瞬にして表情を凍り付かせてしまいました。(ゴマダレー)
「えっえええぇ?! なっ、なな何よこれ!?」
私は思わず変な奇声を上げてしまいました。
それはアルファベットのTの文字の形をしたエッチな下着でした。ご丁寧にですが名前はあえて言わないでおきましょう。懇切丁寧にこの下着を説明すれば私のピュアハートが傷つくだけですわね。こんなの絶対に普段は穿かないんだもん。
なぜ、このような代物が、この私の、しかも寝室のクローゼットの中にあるのかしら。そう、まるでお宝みたいに。どうして穿かない物がここにあるのよ。
「なんで、なんでなのッ?! ねぇ、シャルロッテ!!」
私は背を向けて背後で独り勝手に妄想に入り浸っているであろう、シャルロッテを見て怒鳴りました。
「シャルロッテッ! なっ、なにこのいかがわしい下着はッ!? ばばばっ場違いな所になっ、なななんでこんなのがあるのよぉ!?」
するとシャルロッテが私の呼びかけに気がついてこっちを見てきました。そしたら――
「あぁああああんんん!! それは私の夜伽のための下着です!! 返してぇ!!」
シャルロッテは唐突に遠くから蛙跳びをしてきました。私は軽く悲鳴を上げ、背筋が寒くなりました。両手に持っているその黒いモノを奪い返そうと飛びかかってきたのでしょう。
夜伽と聞きまして盛大な誤解をしてしまいました。何かの間違いよね。そうよ。これはただの偶然に発見した物なのよね。そうだよねシャルロッテ!?
このままでは私は、シャルロッテに押し倒されてしまいます。まずいですわ。私の貞操がこんなおバカに奪われるなんて言語道断ですわよ。昨日はマッサージで終わったのだからそれで満足して頂戴と言いたいですわね。
「ほうっ!!」
私は目を細めて身構えました。その瞬時に、彼女の飛び込みタックルを華麗なる回避運動で避けます。いちおう、こうみえて運動神経はいいほうですわ。日頃の室内トレーニングが功を成しましたわね。そうでなければ、将来におとずれるであろうダンジョン攻略にて野垂れ死んでしまいます。
――もう、本当に手が焼ける思いですわ! どっちが子供なのよまったく。
それから、あれこれと奮闘したのですが、結局私はシャルロッテ愛用のエッチな下着を穿かざるを得ないことが決まってしまいました。無念ですわこんなのってあんまりだわ……。
こうして私は冒険の旅一日目の午前を、このような無様な出来事で過ごしてしまったのです。
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その日の午後の昼下がりのこと、私はとあるモノを買い付けにいくことにしておりました。丘から眼下に見渡す私のお父様が治めている街を背景に砂利道を歩いております。お父様はマフィアでありながら市長としても有名なお人なのです。政治のことについては割愛させていただきましょう。面倒ですわ。それだけです。
ようやく冒険の旅らしい事ができるようになり少しうれしく思います。心が舞い踊ってしまいますわ。この気持ちをハイコミカルに、コサックダンスで表現したいほどに気持ちが高ぶっておりますの。
空高くに輝く太陽から日焼けの傘を用いて日陰をつくり、足早に前へとすすんでいると。
「おっ、おじょうさまあぁああああああああ!! 置いていかないでくださいましぃいいいいいい!! うへへへ……」
チーターのような神速の勢いで私の後を追いかけてくる変態メイドが一匹。ここに向かってきております。こなければ良かったのに。と、肩を落として大きくため息をつくのでした。
ふと空を見上げますと、日傘から見え隠れする太陽の光が私を祝福してくれているような気がしましたのです。不思議な感じがしておりますわね。
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