異世界マフィアでダンジョン生活!! ~転生先はゴットファーザーのおうちでした~
天音碧
第1話:拝啓、お母様。ゴットファーザーのおうちの娘です。
"拝啓、お母様。
今日この頃をどうお過ごしでしょうか? 元気ですか? また、『頭の上にめがねをかけてどこいったのかしら私のめがね??』と、よく漫画でありそうな茶番劇をしていませんでしょうか?
そんな母の事を思うと少し心配です。
いま、私はとある事情で16才の時にストーカー男に殺されてしまって、何の巡り合わせなのか異世界での新しい生活を送ることになりました。今日はそのことで話したいと思い、こうしていま自分の住んでいる家の片隅にある書斎部屋の室内で、重厚な作りの書斎机に向かって、元のいた世界にあるようなパルプ紙とはちがう羊皮紙と呼ばれる、不思議な紙の上にイヌワシの羽で作られたペンにインクを垂らして、なれない手つきではねペンを使って文字を書いております。
私の見ている世界はいちめん雪化粧で覆われた山々に、白い綿飴をかぶる木々がそびえ立つ森と、白くにごりのない雪が積もった地面の銀世界。普段、部屋の中にはレンガで出来た暖炉を使って木こりのおじさんが毎日作ってくれているたきぎを中に入れて、マッチを使って火をおこさないといけないくらい寒いです。お母さんの住んでいるところの季節は今はどうですか?
夏だったりします? アイスがおいしい季節ですね!
私が殺された時に最後にみたのは暗い雲から降り注ぐ冷たい雨の梅雨の事です。
あれからどれくらい日が経ったのでしょう。異世界にやってきてここで生まれた私はもう、この世界の中で過ごして約18年が経ちました。今はもう、この世界では立派な成人です。ちなみに、私は前世と同じく乙女心のあふれている女の子です。成人なので女性と言うべきでしょうか。一人前のレディーとしての一歩を踏み始めています。とてもうれしいことだと思うのです。だって、私は恋する乙女ですから。
ごめんなさいお母さん。私があのとき死んでしまった日はお母さんの誕生日の前日で。それと、私の16歳の誕生日の日でもあったね。悔しいけど、あのストーカー男の私欲まみれた欲求のはけ口にされて殺された私には到底、耐えがたい苦痛の日でした。
私が死んでからお母さんはどう悲しんでくれたのかな?
寂しいかな?
川口れいこより"
…………やめた。
私はさっきまでインクに浸した羽ペンで、前の世界のお母さんに宛ててかいていた羊皮紙の手紙を、白く透き通った自分の手でもって、ぐちゃぐちゃにしわを作りながら丸めて、近くにあったくずかごに投げ捨てる。
ハズレ。ぐしゃぐしゃになったボール状の紙はくずかごの縁ではねて床に転がるだけだ。
うーんッ! なんだかしんみりした内容の手紙を書いちゃったけど、まぁ、めんどくさいからやめた!
そんな適当な事を思いながら、私は今座っている黒で染めあげられた天然の素材である、なんの動物の物かわからない革で貼り付けられた、書斎机と同じく重厚な椅子の背もたれに背中を預けてその場で両手を挙げて伸びをする。長時間座っていたためなのか体内の血液の巡りが悪く、伸びをするととても心地よい物に感じる。血流が循環している証拠だ。
どうもみなさん。いま、生きているなかで幸せを感じているひとときをお過ごしのみなさん。私は、ユーデリア・ポリト・ミサイルと申します。ミサイルと聞いて思わずあの鋼鉄でできた中に爆薬や液体燃料を搭載し、ロケットブースターで推進飛行する大型兵器を脳内で想像した人もいるのではないでしょうか?
あながち、ミサイルという言葉は、前の世界ではあのおっきくてぶっとい立派な逸物の固有名称として名をはせているのは間違いないです。女なのですが、下ネタもそこそこ好きです。なので皆さんがわかりやすい抽象的なたとえで表現させてもらいました。あらやだ私ったら、この家では淑女なのにお下品な事を言ってしまって……おほほほほほっ……。
……めんどくせぇ。
さて、私の自己紹介はここまでにしておきます。私の呼び名はユーデリアをもじってユリアとも呼ばれておりますし、私を育ててくれている父に至ってはミサとも呼ばれていますの。
ちなみにポリトというのは家名なので誰も私のことをそう呼びません。呼んではいけないのです。気安く呼ぶような名前ではないからです。
その話については追々かたることにします。
そうですね。ユリアとミサを合わせてアリサというのはいかがかしら? それともユミ? まるで前の世界の日本人の名前みたいな呼び名になりそうですね。主体性のない事態に陥るので、私が勝手に自分の事をいつもユリアと口で話しているので、そうします。ユリアです。今日から末永くよろしくお願いします。
さて、みなさん気になっている事でありましょう。この世界についてかいつまんで紹介させてもらいます。
この世界は至ってシンプルに言うと私が前に住んでいた地球とほぼ変わらない世界です。ですが、少し変わった場所です。
それは、この世界は科学があまり発展することもなく、産業革命というのが中途半端に起きた世界観をしております。つまり機械はあるのですが、前の世界のような飛躍的に文明が活性化していたような現象はなくて、亀さん歩きで技術が向上しております。亀さんってかわいいですよね? あの愛らしいあんよで重い甲羅を背負って歩く姿はそれはとてもかわいいといったらありはしないですか!?
そうですね。簡単にいえば、ある物というと鉄道が中途半端にあったり、あったりというのは線路が世界中どこの国々も広大な大地に境界線まで隅々に張り巡らすことが出来ていなかったり、汽車の性能がいまいちだったり、客席という物が密封されていることなく外にオープンで開放感のあるものだったり、もう、これ鉄道じゃないよねという代物なのですよ。
私もおうちの関係で、今のお父さんと一緒に鉄道の旅に出たことがあるのですが、私の住んでいる寒冷地帯ではそのオープン客車のおかげでとても寒い思いをしていました。
今はもう乗ってはいません。じつは鉄道そのものが廃止になったからです。そりゃあ、あの極寒の寒さに夜通し高速で疾走する列車にのって旅をしたいと思う人はいないわけです。私の家族を除いてですが……。
それのせいもあって、私の住んでいる国は一部を除いていろいろと廃線。いろいろと、というのはこの国の輸出入の貿易に関しての列車の運行は、しっかりと執り行われているからです。なんでこんな事には情熱を注いでいるのでしょう。
前の世界で見ていたアニメのキャラクターの台詞を借りてもの申すとこうなります。
オレの手札<ルベリア鉄道乗車チケット>の3枚は意味☆不明のカード…。これでどうやって戦えば<寒さをしのげば>いいんだ…!!
汽車が客車を引っ張って運行していた時代に、窓枠と屋根付きの客車が出来ていればあんなトラウマを味わうことはなかったと思いますの。
椅子に座りながら黄昏れつつ、私はかつてのトラウマを思い出して涙を頬に伝わせて悲しんでおります。
あぁ、お父様の鶴の一声で寒くなくなったのはいい思い出でしたわ……。お父様の周りにいたパナマをかぶり、先の丸まった革靴を履き、上下全身をスーツ姿にトレンチコートで身を固めていた男の人たちの絶え間ぬ努力のおかげで、私が凍死することは免れたけど、おうちから近い駅に到着するまでの間のおとこの人たちのつらそうな顔を見て思わず、前世の記憶の死ぬときのあの記憶を思い出してしまって終始、泣きわめいていたのを今も覚えておりますわ。
あの後、男の人たちは駅の前で横一列に並ばされてお父様に鉄拳制裁を喰らわされていたのも思い出す。
あのときのお父様の言い分が『おまえらのせいでミサがかわいそうな思いしてしまったじゃねぇか! どう落とし前をつけるつもりだッ!!』と、言った具合で終始、男の人たちに怒鳴り当たり散らしておりました。
(それ、私が前世のトラウマを思い出しただけですパパン)
と、言いたいところだったけどまだ幼女だった私はお母様に手を握られながら馬車の待つ駅の向かい側に連れられて、それにのって先におうちに帰ったので言いたいことをいえませんでした。
結局のところなにを言っても『そうか。で? その男という奴はこの街のどこのどら息子の家の子だ? パパがやっつけてあげるから言ってみなさい』というオチが待っているのでいえません。言った瞬間。この町のどこかの男の子がドラム缶漬けになってゴミ処理場に捨てられてしまうので、絶対に口が裂けても言えないことなのです。
ちょっと話がそれてしまいましたが、ほかにも鉄道以外の機械は存在します。ですが、ここではあまり語りません。
いまここにいるお部屋の扉が向かい側の廊下にいる誰かによってノックがかかった音がしたので今日はここまでにしておきます。
『お嬢。お夕食のお時間であります』
扉越しから野太く低い声の人物によって夕食の時間が告げられました。
『わかったわ。いま、身支度を済ませるから先に行っててちょうだい』
本当は身支度しなくてもいつものドレス姿なので食事に行くことはできます。
でも、行きたくないのが本音ですわ。
どうしてもこの時間は憂鬱な時間。それもとびっきりの最悪な時間なの。
それはーー
父との食事をする時間だからです。
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