黒の紋章使い

UG

第1話 儀式


この世界では10歳になるとある儀式を行う。

その儀式は魔法を操る紋章を出現させるものだ。どんな子どもも等しく教会で儀式を受ける事が出来る。紋章は必ず右手の甲に出現しその色によって得意な系統の魔法が決まる。

代表的な紋章の色には、炎系統の赤、水や氷系統の青、雷系統の黄色、土系統の茶色などがある。そして歴史の中でもその色の紋章を刻まれた者は、神の使いと呼ばれている聖属性、光系統の白の紋章を持つ者は特別だとされている。


この世界では、戦う際にその紋章を使い魔法を使用する事がほとんどだ。

紋章を使うと言っても、ただ刻まれただけではその系統の魔法が得意になる程度のものでセンスの無いものは刻まれただけで必ずしも魔法を使えるようになるという訳でもない。そして、センスのある者は紋章を拡げて戦うスタイルをとっている。紋章を拡げるとは、右手の甲に刻まれた紋章が右腕から右半身、そして左半身へと紋章の範囲を大きくする事である。紋章を拡げれば拡げるほど、魔法の威力は大きくなり強くなれる。しかし、今現在までで確認されている紋章の拡大範囲は右半身まででそれ以上拡大させた者は居ないとされている。




そして、本日ミスト王国のとある村でもその儀式が執り行われようとしていた。




「ようやく俺も紋章の儀式を受けられるのか」


儀式が行われるのはお昼過ぎからだけど、俺はいても経ってもいられずに村の中を歩いていた。

村の人達も、なんだかソワソワしている様に見える。自分の子どもがどんな紋章を刻まれるのか考えているのかもしれない。


「おい、レイ。おまえ何してる」


「ん?」


声をかけられたから振り返るとそこには、この村の村長の息子であるガムがいた。赤い髪を短く切り揃えた太っている男子だ。

ガムは、やたらと俺に食ってかかってくることが多くて正直あんまり関わり合いになりたくない。


「何かよう?ガム」


はやくこの場を去りたいから用件を聞いて別れよう。


「いよいよ、今日儀式が行われるな。そこで紋章を刻まれたらお前なんか簡単に倒せるようになるから覚悟しとけよな」


言いたい事を言って満足したのかガムはスタスタと去って言った。

ガムは、7歳くらいの時に俺と殴り合いの喧嘩をして負けたのを今でも根に持っており俺を目の敵にして紋章を刻まれ後に襲うつもりなのかもしれない。

正直そんなことになって欲しくはないけど、俺も紋章を刻まれるんだから返り討ちにしてやろうと思う。使いこなせるかは分からないけど…


そんな取り留めもない事を考えながら村の中をグルグルと周りながら散歩していると村の人達が教会に向かい始めていた。


俺も、村の端にある教会に向かった。教会が見えてくるとそこには、親に付き添われた10歳になった子どもが6人ほどいた。その中にはガムもおり神父の前に並んでいる。あまり大きな村ではないので子どもの人数も少なく早く儀式が終わりそうだ。


俺が教会に着いた事に気づいた付き添いの親達は俺を可哀想なものを見る目で見てきた。

俺には親の記憶がない。物心ついた時から親の存在を知らなかったし、今生きているのか死んでいるのかも分からない。だけどそんな可哀想な目で見られるのは気分が悪い。


そんな生活とも今日でおさらばだ。紋章を刻まれて魔法を使えるようになれば王都の学園に入学する事が出来る。そうすれば、この村に居続ける必要も無くなるし今より良い生活が出来る。親が居ない俺の面倒を見てくれた村長や一部の村の人には感謝もしているが、俺は村の外の世界を見て見たい。


そんな期待を膨らませながら儀式の説明をしている神父の話を聞いていると、説明が終わったのか神父が教会の奥にある扉に入っていき続いて村長の息子であるガムが入っていった。

5分ほど経つと再び扉が開き中からガムが出てきた。それを見たガムの両親は、急いで駆け寄り何やら話しているようだ。大方どの系統だったかを聞いているのだろう。まだ、操れるようになるかわ分からないからな。


その後も順番に入っていき、みんな出てくると右手の甲にそれぞれの色の紋章を刻まれていた。その様子を見ていると余計に俺もはやく自分の紋章をみてみたい衝動に駆られて自分の番を今か今かと待っていた。


ようやく6人終わり俺の番になった。紋章を刻まれ終った子どもとその親は、ひとしきり話し終えると自分の家に帰っていった。まだ残っているのは、ガムとその両親、そして1つ前の子どもとその両親だけだった。

扉を開けて部屋の中に入ると、床には魔法陣が描かれておりその前に神父が立っていた。


「最後は君ですね。では、その魔法陣の中心に立って眼を閉じてください。」


俺は、神父に言われた通りに魔法陣の中心に立ち眼を閉じて紋章が刻まれるのを待った。


「では、儀式を執り行います。」


「はい。」


俺が返事をすると神父が何か唱え出した。


「我が神、ヘズよ。時を超え新たなる息吹にその加護を与えたまえ」


唱えおえると眼を閉じていても感じるほどの眩い光が俺を包んだ。しばらく光を感じていたのだがその光が収まったのを感じると神父が


「では、眼を開けていいですよ。そして、自分の右手を確認してください。」


俺は、そっと眼を開けるとさっきの光の影響か少し視界がチカチカしていたがそれが治るとワクワクしながら右手の甲をしてみた。


「うん?」


俺の右手には、何の紋章も刻まれていなかった。


「神父様、紋章が出てないんですが?」


訳が分からなかったので質問してみたが神父も首を傾げていた。


「おかしいですね。紋章を扱えない事はあっても出現すらしないなんて事は聞いたことがありません。」


前例のない事なのか神父にもこれがどういう事なのか分からないようだった。期待していただけにこの結果には正直ガッカリした。


俺が右手を眺めながら落ち込んでいると、不意に左手に鋭い痛みが走った。


「つっ!」


痛みの元凶である左手を見てみるとその甲には、黒い紋章が刻まれていた。


「くっ…」


その紋章が発しているであろう痛みは徐々に強くなってきた。左手を抑えながら膝をつくと今まで俺の右手に紋章が現れない原因を考えていた神父がようやく異変に気づいた。


「ど、どうしましたか?」


焦った様子で問いかけてくる神父。その神父に紋章を見せようと左手を差し出すと、その紋章は先ほどまでは手の甲だけだったのにも関わらずすでに手首まで拡がっていた。


「こ、これ」


痛みに耐え何とか声を絞りだし紋章を見せると途端に神父の顔色が変わった。


「な⁉︎何でこの紋章が!いったいどうなってるんだ⁉︎」


急に動揺しはじめる神父。だが俺はどうしてそんなに動揺しているのか考える余裕もなくなっていた。


そして、紋章は拡がり続け左半身まで拡がったところで意識がなくなった。


最後の記憶は、慌てた神父が部屋から急いで出ていき教会に残っていた人たちに逃げるよう叫んでいる声が聞こえているところだった。





その日、ミスト王国のある村で教会が丸ごと消失する事件が起こった。教会があった場所には抉りとられたような跡だけが残っておりその跡の中心には、左手の甲に紋章を刻んだ1人の少年が倒れていた。








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