第3話

能力の解析はコンピュータで行われる。

そもそも能力が発現するのには条件がある。


感情が高ぶったとき、身体の危険を感じたときなどに脳が状況に適応・対処するために脳の機能を一部書き換えるのだ。



「死ぬ気でやれ。死なないから」という言葉があるが異能力というものはそれを完全に無視したものだ。


通常はこの格言通り、人間は自己防衛のため死ぬ限界までの力しか発揮することができない。


しかし、危険が迫ると脳が変異する。

発現した能力は時に制御できないこともあるので京一はH.Sに保護された。



「解析終わったわよん」



そう京一以外の今いるH.Sのメンバーに伝えたのは脳科学者の早乙女 理乃。


彼女は異能力者ではないが、異能の研究をしている。

まだ大学院を修了したばかりの25歳だが、独身だからか飼い猫の名前は「旦那」らしい。



「で?どれだったんだよ」



神谷が「どれ」と言ったのには理由があった。

新種の異能が発現するのは珍しい。


つまり、誰かと同じ能力であることもあるのだ。人によってできることには幅があるが。



「新種。しかもこれは他の異能とは一線を画するものよ。」



「原子分解?」

コンピュータを覗き込んだ園部が言った。




一方その頃、京一はまだ眠っていた。

1度目が覚めかけたが、また眠くなった。


あんなことがあったんだ。まだ疲れてるんだな。でもそろそろ起きないと。


もう昼過ぎだった。

起き上がって昨日の部屋に向かう。

扉を開くと皆が集まっていた。


ふと初めて見る女性と目が合った。

何故か嫌な予感がした。そして予感は的中した。


「ふぉー、君が噂の大橋君かぁー!ボクは理乃だよ!りのお姉ちゃんってよんでね!」


突然白衣の若い女性が飛びついてきた。

昨日の蜘蛛のことがあったからか飛びかかってきた理乃に身構えた。

昨日からわからないことばかりが増えていく。


「身長177cm、体重54kg、血液型A型、小学生から高校生までサッカーをやっていて、趣味は読書ということ意外の君のことを教えてくれないかな!?」



「大橋君は理乃君に気に入られてしまったようだね。仲のいいことはいいことだ」

坂本が微笑む。



「襲われないように気をつけろよ」



身の危険を感じるが、そんなことよりも気になることがあった。



「理乃さん、俺の能力は?」



「原子分解。まだ詳しくはわからないけど、神谷君が撮ってくれたビデオを見たところ原子を分解して「有」を「無」に変える能力みたいだね。まだデータがないから詳しいことはわからないね」



理乃さんが言っていることは誰がどう聞いてもおかしい。


原子の定義はこれ以上分割できないということなのだ。それを分解してしまうなんておかしすぎる。異能力とはこんなものなのだろうか。



「皆さんの異能はどんなものなんですか?」



その時、通信が入った。


「こちら北支部!北地区にディアブロが2体出現!こちらだけの対応は困難と判断した!応援を要請する」



ここ以外にもいくつかディアブロに対抗する拠点があるようだ。詳しいことはまた坂本さんか園部さんに聞こう。



「そうですねー、能力は見てのお楽しみです♪」


「おい、アホ女。俺と新入りが行くからここしっかり守っとけよ」


神谷は俺のネクタイを掴んで引っ張っていく。



「「お気をつけて」」



後ろから坂本と理乃の声が聞こえた。俺はそんなに身体能力に自信はないし、そもそも異能力の使い方がわからない。


そんな俺の気も知らずに神谷は先を行った。




北地区に着くと建物は破壊されてところどころで火が出ていた。

北支部の迅速な対応で住民は避難したようだ。


あたりを見回したが標的らしきものはいなかった。


歩いていると何かにぶつかった。前には何も無いのにそこには壁があった。壁というには弾力があるがこれは何なのだろう。

少し上を見上げると黄色の眼が2つ宙に浮いていた。


「おい、バカ!早く離れろ!」


神谷の声に驚いて俺はその場から飛び退いた。

するとすぐにその壁は正体を現した。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る