第42話 3/26

その娘は監禁されていた。幼い頃に誘拐されてそれっきり。今日もタチの悪い連中が彼女を監禁した男と酒を飲み交わしている。

「なぁ、あの娘もいい加減男を経験させたら良いんじゃないか?」

「まぁ、そのうちな。俺はあいつを実の娘のように思っている。だから、俺にそんなことを言うのは少々癪に触る。やめてくれたまえ。何よりあの娘は最高の兵器になる。」

どの口がそんなことを言っているのだろうか。

外は雨が降っている。春の雷が鳴っている。

「諸君!喝采シタマエ、喜劇ハ終ワッタ!」楽聖、ヴェートーベンの最期の言葉を言ったのち、縛(ばく)を解き二人の部屋に向かった。

「これは、神様ようこそお越しなさって。」

「貴様、何シタカワカッテルノカ?」

娘の身体に憑依した何者かはそういうとワインの入っていたグラスを手にして、監禁者を殴りつけた。

「な、何すんじゃ!ぶち殺してやる。」監禁者の友人は銃を発砲しようとしていた。

「誰ニムカッテ口キイテイル。死ヌノハ貴様ダ」

意思とは裏腹に体が勝手に動かされていく。

まずは銃を置いて。それから

「自裁シロ。アンタモ同罪ダ。ミテミヌフリヲシタノダカラナ。」

短刀を投げると、男はTシャツ姿になり、顔は青ざめているがその短刀を自分に向ける。

「分かった!分かった!だから許してくれ、ンンッ…アアッ。ウォー!」

男は切腹し、のたうち回りやがて絶命した。


そしてその娘は白いカチューシャを男の血だまりの中に置いてその場を立ち去った。憑依されている彼女はそのことを知らない。

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