人鬼物語

成生わふ

第1話 人々の行く街で

 東京には、人とともに人鬼じんきと言われる人の姿をした鬼がいると言われている。そして、人間を主食にして暮らしているため、深夜に歩くには注意を促されているようになったり、訓練をされた警官達が特殊な防具を付けて見周りに行ったりと、それなりの対策は徹底的にされてきた。だから、最近では人鬼に食われた人間の死骸がゴロゴロと落ちているなんて事はなくなってきた。


「最近、人鬼達のニュース減ったね。」

「それだけ、街が平和になったってことじゃない?」


 ただし、怖い事は今まですれ違った人達の中に、もしかしたら人鬼がいるかもしれないっていうことだ。人鬼は、人間の姿をしているから一目で見てもわからない。しかし、標的とした人間を食べる時に目の色が青く光るとされている。つまり、食べられるときに初めて人鬼と気づくことになるのだ。それに、人鬼の身体能力は人間と比べ物にならないほどに良いため、人間が敵うわけがないのだ。


「じゃあ、ばいばい。また明日ね~!」


 もう一つ、その人達はみんな何らかの事故によって亡くなったりした人とよく似ていると言われている。人鬼となっても記憶は残っているらしいが、空腹には耐えられない為に殺してしまうようなケースが多いと専門家は語っていたりするけど、本当かどうかは定かではないし。それに、死んだ人がなんで人鬼なんかになっているのかもわからない。誰が何のために?なんで人を食べる人鬼なんかを作ろうと思ったのかもわからない。安らかに眠らせてあげれば、人鬼なんていう生き物が存在しなかったのに。趣味の悪い人もいるんだなあ。てか、もし私が事故に巻き込まれて、死んじゃって人鬼になっちゃったらどうなるんだろうな。


「きゃー!!!危ない!!逃げて!!」

「えっ、なに?」


 物の一瞬で、意識が途切れた。何が起ったかもわからないまま、カコは死んでいった。それもそのはず、カコの真上から落ちてきたのは工事中のビルの鉄柱だった。そして、カコはその鉄柱の下敷きとなってしまったのだから。カコはすぐに病院に運ばれたが、即死だった・・・はずだった。目が覚めたのだ。しかも、体に違和感を覚えながら。目が覚めた場所は、運ばれた先の病院の病室だった。何があったのか思い出そうとしても記憶は、友達と別れた所から全く思い出せなくなっていた。看護師さんが言うには、もう退院しても問題ないとのことだった。きっと、貧血か何かで倒れちゃっただけなんだろうなと、少し安心しながら私は一人暮らししているマンションへ帰った。


「午後五時頃〜〜」


街中は、登下校でよく通っている路地裏の工事で起こった事故の話が緊急速報として流れていた。亡くなったのは、一人の女子高生だった。そのニュースを目撃したカコは、足早にマンションに帰ろうとしたが、事故にあった女子高生の住んでたマンションだと嗅ぎつけたマスコミが集っていたため断念した。どうして?私はちゃんと生きてるじゃない。ここに存在しているから、事故になんか遭っていない。だけど、なくなった記憶。それが引っかかり、しばらく考え込んだ。

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