螺旋が描く境界線

幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕

第1話“なんで…?”

──なんで…? 嘘、だろう…?


俺は検査結果を見て愕然とした。


ココは“オメガバース”と称される、世界。性別は男女の他に、αアルファβベータΩオメガと合計六つある。

それぞれ説明するならば──…

*α性…男女関係無くΩを孕ませる事が出来るエリート。Ωとはつがいと呼ばれる親子や恋人よりも深い繋がりを持つ事が出来る。人口の約20%を占め、国の中枢を多く占める。

*β性…一般人=普通の人。特に何の特徴も無く、多くの人間がこのβにあたる。βはβ同士と結婚する事が多い。人口の約70%を占める。

*Ω性…男女関係無く孕む事が出来る。三ヶ月に一度、発情期が来て番の居ないα(時にはβさえも)を魅了するフェロモンを強く発する。人口の約10%を占め、絶滅危惧種扱いされる事あり。“種族の繁栄”を仕事と思われがちな為、蔑まれる事が多い──…


俺の家はαを多く輩出してきた家柄で、俺自身も“αだ”と言われ続けてきた。なのに──…


“Ω”


そう、大きく検査結果に書いてあった。何かの、間違いであってほしい。そう思ったのに──…


「えー…この結果はほぼ覆る事はまずありません。検査結果を親御さんに見せて、今後どうするかの対策をよく、話し合うように──…」


──…覆ら、な……い…? じゃ、じゃあ俺は……


先生の言葉で目の前が真っ暗になるのが分かった。


“お前は永遠にΩだ”


つまり、そういう事なのだ。


俺は永遠にΩで。


αになる事も、βにさえも、なれない。


一生Ω。


α…ヘタしたらβにさえ、永遠に孕ませ続けさせられる。


そういう役割を、無理矢理…定義付けられた……。


「……じゃあ次……球技大会の──…」


先生の話が耳からすり抜けていく。


ダメだ、もう、俺は──…









「…………ひ〜ぃ!」


「…………え、あ…くる、わ……」


いきなり肩を強く揺さぶられて、現実に引き戻される。そこには幼馴染みである、旭加郛あきかくるわの姿があった。


「どうした? 珍しく呆然としてっけど…」


「…………あ、あぁゴメン。少し考え事してて…」


「そうか? 悩みとかあるなら遠慮なく言えよー?」


「……あぁ、その時は頼むよ」


「……あ〜ひぃが可愛い…」


「え?」


クルワが何か言うが聞こえなかった。クルワに聞き返すも、“何でも無い”と流された為うやむやになる。


「早く帰ろーぜー?」


「だな…」


少々気が重いが帰らないという訳にも、いかなかった。


帰りの準備を済ませ、クルワと教室を出る。


「じゃあ俺はこっちだからー! また明日なー!」


「あぁ、また明日」


クルワと別れ、家に向かう。


──ギィィ……ッ──


「ただいま」


「あら、お帰りなさい。それで? 結果はどうだったの?」


挨拶もそうそうに母が訊いてくる。俺は荷物を部屋に置いて、検査結果を母親と帰ってきた父親、そして数多く居る兄貴たちに見せる。


皆αで、Ωは居ない。使用人はβだが、その中にもΩは存在しなかった。


──パサッ……──


「そう…アナタ、Ωだったの」


「…………はい」


母が検査結果を机に放り、言う。


この家でのΩのは知っていた。


この家には“発情抑制剤”を置いていない。置いてあったとしても


Ωはで発情期には毎日、発情期でなくても家人の気が乗った日に──


それこそなんでもアリだった。


輪姦・強姦どころの話じゃない。拘束・監禁・凌辱…口にするのすらおぞましい行動の数々が、兵器で行われる。


「じゃあアナタは…わね?」


「……ッ!」


「──連れていって頂戴」


「了解しました」


側に付いていた警備員が俺の腕を掴む。抵抗しようとして、腕をねじられ、痛みに顔を顰める。


「──ッ!」


“助けて”


そう叫ぼうとして口に枷をはめられ、声を封じられる。そして、腹に重い一撃を加えられそのまま──


俺の意識はどん底へ突き落とされた──…。








──なんで…? 俺は……

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