超短編

汐宮

代償




「私の夢は、お姫様になることです。


物心付いた頃、ある有名な童話を読みました。妖精に魔法をかけてもらい、綺麗なドレスに身を包んで舞踏会へ行き、王子様と出会い、結ばれる。そうしてお姫様になった、あの有名な童話です。動物達から愛され、宝石を散りばめたようなキラキラと輝いたドレスを身に纏い、愛くるしい笑顔を振りまく。そんな存在になりたいと、ずっと思っていました。これが夢物語だというのは重々承知しています。童話に登場にするようなお姫様やドレス、ましてやハンサムな王子様など、たとえ存在していたとしても私には目もくれないでしょう。何しろ私は見目が良い方ではありませんし、人見知りで他人と極力関わることがないよう生きて参りましたから。お姫様と呼ぶには到底、相応しくない人間です。

ですから私は、醜い自分が少しでもお姫様に近づけるよう、毎日ワンピースを着ています。そうです、こんな私でも、努力をしています。

ワンピースは、お姫様が着ているドレスと、よく似ていると思いませんか。形状は同じですし、レースの付いたものやフリルを多めに使ってあるものもあります。パニエを着ればもっとそれらしく見えるでしょう。色も重要です。人にはそれぞれ、自分に合った色というものがあります。私の場合、それは赤でした。いつだったか、ショーウィンドウで真っ赤なワンピースが目に入りました。とても綺麗な赤でした。その時私は直感的に、私に合う色は赤なのだと分かりました。ですが、街で見かける赤色のワンピースはどれも、私に合うものではありませんでした。


毎日お姫様のようなワンピースを探しては試着していますと、いつしか私の夢は、最高のワンピースを見つけることになっておりました。


色や形、サイズ、質感。それら全てが型にハマったように、私に合うワンピースと出会うことができれば、私はお姫様になれるのだと思いました。だって、お姫様は毎日同じドレスを着ているでしょう?お姫様は、自分に最も相応しいドレスが何なのか理解しているのです。ですから私にも、毎日身に付けるに相応しいワンピースがあると思いました。いえ、実際、ここにあります。そうです、私はついに出会ったのです。どこで出会ったのか、私に着られる前このワンピースはどうしていたのか、そのような事は重要ではありません。だって、偶然という言葉で終わらせるにはとても呆気ないですし、必然と呼ぶには出会うまで余りに長い時間を要したように思えるのです。私がこのワンピースに出会ったのは運命。この言葉がピッタリかもしれません。ですが運命は時に残酷な試練を与えるもので、形サイズ質感、見ただけで分かるほど、それらが私に誂えたかのように作られていたのですが、純白だったんですよ、このワンピース。それはそれは人目を惹く、まるで地上に舞い降りたばかりの天使が着ているに値する程の純白でした。色だけが、私に着られる事を拒絶していたのです。ですが、私はふと気付きました。知っていますか?白は、どんな色にも染まるという事を。その事に気付いたからなのか、妖精が魔法で染めてくれたんです。私の大好きな赤色に。まるでお姫様だけが着るのを許したかのように一瞬で、熟れた林檎のように…いえ、人間の体内に眠る情熱の赤色に染まったのです。どうです、これで私はお姫様でしょう?」


警察によると犯人は以上のように供述しており…という金切り声のアナウンサーが話し出したと同時に、俺はテレビの電源を落とした。


「ワンピースに取り憑かれた女の犯行、か…」


そう呟きながら片手に握りしめていた犯行現場の写真を見つめる。そこには、純白に合わせた靴と鞄を残し、ナイフで滅多刺しにされた裸の女性が、路上で横たわっていた。

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