前夜
鬼怒哀樂
第1話 「引き金」
新宿南口を横目に少し強めの雨音と眠気を感じながら甲州街道を車で走っていた。
冬の訪れに気付いたのは午後の帰宅ラッシュが深々と夜に溶け込み、白い息で会話をする恋人たちを窓ガラス越しに眺めていたからである。
私はこの日翌月に迫った結婚式で新婦が纏う特別なストールを受け取る為、高島屋に向かっていた。
新宿はこの時間いつも混み合い車も思うように進まない中、私の携帯が響いた。
「もしもし」
少し仕事疲れを悟られそうな声で電話に出ると相手の緊迫感に私の神経は強く張り巡らされることになる。
「悟君、大変なの。娘が交通事故を起こして重体で。〇〇病院に搬送されたんだけど 。私も今すぐ向かうので悟君も病院へすぐに向かってください。」
「わ、分かりました。」
電話越しの相手は来月結婚式を迎える妻、ともみの母であった。頭の中が白紙のキャンパスに暴力的なラクガキをされたような混乱のまま、何が何だか分からぬまま、交通渋滞を抜け慌てて強めにアクセルを踏み込んだ。
万が一ともみに何かあったら...
万が一....
よからぬ妄想に襲われながら首都高に乗り、フロントガラスに突き刺さる雨をすり抜けるかのようなスピードで病院へ向かうその途中、対向車線の車のテールランプは私の体をスローモーションで吸い込んだ。
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