第4話 奴隷少女、主人に反抗する!



「ち、ちょっと待って下さい。言ってる意味がわかりませんッ!」



 テーブルを挟んだ反対側で大声を張り上げる少年は、驚きにその藍色の瞳を落とさんばかりに目を見開いている。



「ばはま、ふひはほまへほはふひほはひとへへふっへ」(だから、ウチはお前を主人とは認めへんって)



 私はテーブルに並べられた料理を片っ端から口の中に放り込み咀嚼そしゃくしていた。


 勿論、片手にはエールジョッキを掲げ、口の中のモノを時折胃に流し込んでいる。



「どこの世界に奴隷に奢って貰う主人がおんねんッ」



 私は目の前に座るブロンドの美少年に睨みを利かせた。


 すると、ぐうの音も出ないといった表情で美少年は押し黙った。




 ***




『うん。君に決めたよッ!』



 その一言で、宝石の様な綺麗な藍色の瞳に美しいブロンドの髪が映える美少年に私は買われた。


 契約内容は、細々した物を省くと、私は『主人の身を守る事』、少年は『奴隷を養う事』、それが私と少年が交わした契約だった。


 しかし、蓋を開けてみれば少年は私を買った事で一文無しになり、私を養うどころか、自身の今日の宿代すら持っていないという事であった。



「取り敢えず、服買いに行ってええか?」



 冬が近いと言うのに服を剥ぎ取られ布切れ一枚だった私は、まず最初に少年の許可を貰い、一緒に服を買いに行った。


 そして今は、そのついでに食事処に寄っている最中なのだ。


 勿論、服代と飲食代は全て私の自腹だ。


 なぜ私がお金を持っているかと言うと、粗方の荷物はアイテムボックスに収納していた為、正規兵おかみに没収される事なく残っていたからだ。



 …………ッ。



「貴様、いい加減にしろッ! 奴隷の分際でシャルジュ様に向かって失礼だぞ」



 少年が押し黙ると後ろに控えていた女性がいきなり出しゃばってきた。



「はうはへんほはへ、ほひふほほぼひゃははうはは?」(何やねんお前、コイツの保護者か何かか?)


「貴様ぁ……いい加減にしろよぉぉぉおおッ!」



 私が口に食べ物を詰め込みながら、尋ねると女は額に青筋を立て、腰の得物に右手を添えた。


 それを流し目で確認しつつも私は食事を口へ運ぶ事を止めなかった。



「待って、ルベルレット! これは僕と彼女の問題だ。だから口を挟まないでくれないか?」



 ルベルレットと呼ばれる女を制止すると、少年は真っ直ぐな眼差しで私に向き直った。



 __________________________________


【ルール・制度紹介】


奴隷どれい制度】

 一般的に奴隷とは、人間でありながら所有物として扱われる者の事を言う。

 奴隷は大きく分けて2つの奴隷に分類され、『一般奴隷』と『犯罪奴隷』に分類される。


 前者は、借金などで奴隷に身を落とした者であり、奴隷制度上で人権が保護されており、魔力契約によって身体に契約の印が記してある。

 主人と奴隷は双方とも契約を守らねばならない。(絶対条件として、主人は奴隷の最低限の生活を保証しなければならない)

 主人が契約違反又は契約外労働を強いた場合は犯罪者として捕まり、奴隷が契約違反を犯した場合は全身に印が現れる。奴隷は契約による賃金で自身を買い戻す事が可能で、その場合は契約を解除出来る。


 後者は、犯罪を犯した刑罰として、人権など無視した過酷な労働や仕事に従事させられている者の事である。

 その者に生活保証は与えられず、命令に拒否権は無く、絶命するまでが刑の一環とされている。


 __________________________________


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る