@kaho20862

アイスクリーム

 なんで夏になると空が大きく見えるんだろう。ふと思う。やはり八月の空はいつもとちがう。特別なにがというわけではないけれど、ちがう。

 

 高校二年生になったおれのあたまは浮かれ気分だけに支配されてはいない。まもなくおとずれる受験という名の時間的、精神的拘束。来年の今ごろはもう部屋にカンヅメ状態だろう。それを思うと嫌でも気が重くなってくる。


 そんなふうに気がつくといつも下を向いている。気の重さが頭のそれに比例しているのか、誰かにこうべをたれているわけでもないのに。


 もしくは流れに従順なことを示しているのかもしれない。時の流れにこうべをたれる。詩的すぎるだろうか。


 しかし、夏の空はそんな些末なことはおかまいなしに青く、ひろい。全てを受け入れてくれるような大きな器をもっているようにも見えるし、その大きさをたてに圧迫してくるかのようでもある。アイスクリームのような入道雲も背景としてぴったりだ。


 

 そうだ、アイスクリームが食べたい。


 

 唐突な思いつきが欲求にかわるまで、時間はかからなかった。

 

 目的が決まると行動ははやい。おしていた自転車にまたがると一気にペダルを踏みこんだ。さっきまで重かった頭はうそのように軽く、顔に日光が降り注ぐ。


 あの雲のようなアイスクリームが食べたい。ただ一つの衝動が頭を上塗りし、体を動かしている。汗をぬぐい、ときおりきしむ自転車を全力でこぐ。


 たぶんアイスクリームを食べたところで何かが変わるわけではない。そんなことで現実から逃げられるわけでもない。でも、ほんのちょっとしたきっかけが自分を動かす原動力になる。それが意外な結果につながることも、もしかしたら。


 ひとは冷たければおいしく、暑ければとけてしまうアイスクリームのように単純じゃない。つめたいのがいいとか、あついのがいいとか正直よくわからない。


 けれど全力の何かが報われないのは悲しい。願わくばアイスが食べられることを。とけてしまいそうな頭のなかでそれだけを祈った。


  


 


 

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