Epilogue
Home, Sweet Home
『らうっ! あれ!』
銀世界が、にわかに色彩を帯びる。
最初に見えたのは、赤茶けた鐘つき堂の屋根。それから、黒々とした親子杉や重厚な青い屋根の村長宅。西側の建物には雪がずっしりと覆い被さって、まるで巨大な雪だるまのように見える。
来る日も来る日も雪景色ばかり見つめてきた目に染みる、それは――それは、命の色。
「見えたぞ……エストだ!!」
「俺達、帰ってきたんだな……」
凍えきった心と体にじんわりと広がっていく言葉。
夢にまで見た懐かしい景色は、今確かに、彼らの目の前に広がっている。
「ようやっと戻ってきましたね」
「ああ……。たった一月離れてただけなのに、なんか、もう一年くらい経った感じがするよ」
「早く行こう。寒い」
場の雰囲気をぶち壊す一言に苦笑を浮かべ、それじゃあ誰が一番か競争だ、と駆け出す冒険者達。
「やれやれ、若い人は元気でいいですね。さ、私達も急ぎましょう」
「ああ、そうだな――ってだから人の上で暴れんなっ!!」
『らうっ! るふぃーり、はやく、かえるぅ』
不意を突かれたように、青年は笑う。
「帰る、か――」
蘇る、懐かしい日々。
その全ての思い出の中に、彼女は――卵は――いた。
大いなる光の竜。
辺境の地に舞い降り、育まれ、生まれた命。
そして彼女は「帰る」と言った。さも当然とばかりに、朗らかに笑ってみせた。
ならばもう、何も言うまい。
旅立ったものは、いずれ帰り着く。それぞれの、心の故郷へ。
それが新たなる旅立ちの地となるにしても――今はただ、互いの無事を喜び合おう。
「ラウルさーん! おチビちゃーん! 置いてっちゃいますよー!!」
遠くで手招きをする仲間達の声に応え、顔を上げる。
道はゆったりとうねり、辺境の小さな村へと続く。雪に埋もれた、夢追い人の故郷。目を凝らせば、古びた木の門の辺りに人々が集まる様子が見て取れた。
気の早い者がぶんぶんと、千切れんばかりに手を振っている。何か大声で叫んでいる者もいたが、生憎とここまでは届かない。
よし、と呟き、肩の『荷物』を担ぎ直す。途端に歓声を上げ、ぎゅっとしがみついて来る少女。その華奢な足首を握り締め、視界を遮る小さな手に閉口しつつ、ゆっくりと歩き出す。
「帰ろう。俺達の――エストへ!」
『らうっ!』
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