(7)

「……卵を奪取し損ねたばかりか、手傷を負わされて逃げ出したと、そう言うのだな」

「も、申し訳ありません……」

 床に頭をこすりつけんばかりの男達に、サイハはふん、と鼻を鳴らす。

「詳しく話せ」

「は、はい……。エスト近郊の廃村にて連絡役と繋ぎを取っていたところ、急にあの神官が現れまして……」

「あの卵は、持っていたのか?」

「はい、しかし……我らが仕掛ける前にその神官が『影の神殿が、何の用だ』と……」

 サイハの眉がひそめられる。

「影の神殿が、とそう言ったのだな?」

「はい、間違いありません。それに気を取られた瞬間、奴は闇の術にて辺りを暗闇で包みまして、その隙を……その後取り囲んだまでは良かったのですが、どこからか現れた魔術士が術で応戦してきまして、やむなく……」

「そうか……」

「申し訳ございません!!」

 サイハは溜め息をついて、手を振った。

「よい、済んだことだ……。奴を待ち伏せしていたわけではないのだからな。それよりも、本来の役目の方が大事だ。繋ぎは取れたのだろうな?」

「はい、勿論でございます。同志の働きかけにより、例の者を動かす手筈はついております。準備が整い次第、実行に移るとのことです」

「そうか、ならばよい……。しかし、今は向こうも警戒をしているだろう。実行の時期はこちらから伝えると言え」

「承知しました」

「では、もう良い。下がれ」

「はっ……」

 男達が部屋を出て行くと、サイハはぐっと拳を握り締めた。

「あの神官……こちらの正体に気づいたとは……」

 見かけによらず切れ者というのは間違いではないらしい。当てずっぽうだとしても、洞察力の良さには驚かされる。しかも、ただの神官にしては戦い慣れをしてはいないか。

 不意をつかれたとはいえ、一人は手首を裂かれ、残りのものも数ヶ所傷を負っている。向こうにもかすり傷程度は負わせたようだが、味方らしい魔術士の存在といい、まったくもって侮れない存在だ。

「しかも、よほど悪運に恵まれているらしい。誰も近寄らぬ廃村だからと、あの場所を連絡役の待ち合わせ場所に指定したというのに、よりにもよってそこにやってくるとはな」

 しかし。

「あの卵を拾ったのが運の尽きだ……せいぜい、つかの間の平和にうつつを抜かしているがいい……」

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