未来の卵
小田島静流
第一章 出会い
(1)
草原を渡る風が、爽やかに頬を掠めていく。
遠く、草原の彼方に見えるのは、かつて強大な力を以て世界を支配していた魔法大国ルーンの跡。
一千年余りの時を経てすでに廃墟となったルーン遺跡。そこに未だ眠る大国の秘宝を求める者達は絶えないと聞く。しかし、それももう昔の話。
かつては栄華を極めた魔法大国も、今はろくに人も通わぬ僻地と化した。どんなに強大な力を持とうとも、時代の流れには逆らえないということか。
そんな廃墟を遠く眺めながら細い道を辿っていた青年は、ふと立ち止まり、ぼそっと呟いた。
「……けっ、しけた場所だぜ」
そのしけた場所に、彼は当分の間住まなければならないのだ。命令だから仕方ないとはいえ、先日まで世界でもっとも文化の発達している国に暮らしていた彼にとって、それはまさに試練の日々と言えるだろう。
「どこにあるってんだ、村は」
彼の目的地は、ルーン遺跡にもっとも近い村、エスト。
かつて、遺跡探検を目的にやってきた冒険者達が作り上げたという村は、別名をこう呼ばれていた。
『最果ての村』
『北の僻地』
『夢追い人の溜まり場』
……どれをとっても、あまり喜んで行こうとは思えない別名である。
「畜生、日が暮れる前には絶対辿り着いてやる!」
誰にともなくぼやきながら、彼は草原を走る細い道を再び歩き出した。
ラウル=エバスト。
のちに伝説ともなる彼も、この時はまだ、口の悪いただの青年でしかなかった。
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