未知なる者『スクラッパー・オリジンズ』
「ところで、私も闘器を持っている以上、前線に出ないといけないんですよね……?」
「うん。でも、そこは本人の意思を尊重しないとね。ちょうど優里ちゃんのような本部の運営か、スクラッパーズと戦う最前線かを選べるようにしているよ。」
「でも君には、さっき言った通りの才能があるから、僕としては……ね?」と言いつつ、私から顔を逸らした後、目だけがチラチラとこちらを見てくる。こちらとしては、組織の運営のほうが楽に見えるのだが。
「あの、1つお言葉ですが、私達のような者達も、決して楽ではありません。特に最近は酷く忙しくて……」
「ま、まぁ当然ですよね。私やほかの新人に対しての説明なども色々と……」
「いや、実はそうじゃない。今回は偶然暇だったから、優里ちゃんに来てもらっているだけだよ」
「……偶然?」
偶然暇だったとは、一体どういうことだろうか。ということは、この人は本来案内役の人ではないことになるが……。
「もう1つ申し遅れていましたが、厳密にいうと、私は案内人でもあり研究員でもあります」
「研究って……まさかスクラッパーズを?」
研究とはどういうことなのだろうか。普通の動物ならまだ捕えて観察すればいいだけだが、あんなのを捕らえられるかと聞かれたら、私は当然NOと言うだろう。
しかし彼女は、私の質問に対して、少々難しい顔を作ってから答えた。
「スクラッパーズ……といえばそうなのかもしれませんね。私達は主に、未確認スクラッパーズ……別名『スクラッパー・オリジンズ』と、私達が呼称するスクラッパーズの調査をしているのです」
「このスクラッパー・オリジンズ、なんでも君が戦ったような、スクラッパーズ達を産み落としているらしいんだよね。あくまでも噂だけど、発生源かもしれないっていうなら見過ごせない話だよね」
確かにそうだ。爽器の言う通り、あのスクラッパーズを生み出す者が実在するならば、どこからあんな化物が産まれてくるのかも説明できる。
そして、この廃鉄ブレイカーズにも『スクラッパー・オリジンズを倒す』という目的もできるのだ。
「今までず~っと、何の考えも無しに、目撃されたスクラッパーズを屠るだけの活動だったけど、親玉がいるなら話は違って見えてくる。なにより目的ができて、組織の士気が上昇するのは大きいなことだと思うし」
「確かにそうですが……そのスクラッパー・オリジンズは現状見つかっていないのですか?」
私の質問に、爽器は後頭部に手を伸ばし、小さく「参ったな……」と言いながら苦笑して見せる。
そして助け船を求めるような目で、爽器が優里をチラと見た。優里は返事代わりに、呆れたような表情を爽器に向けた後、咳払いをして補足を始めた。
「えー、コホン……確かに貴方の言う通りです。現状は噂だけが入ってきていますが、現地調査をしても何も掴めていない……のですが」
「……のですが? 何かあったんですか?」
少しだけ優里が、ばつのわるそうな顔を見せた。言うべきかどうか、迷っているようだ。
『……マスター、女の人にあまり無理強いをしない方がいいのでは?』
「あ、あぁ。すみません。言いたくないなら別に言わなくても……」
「……いいえ、やはり言うべきだと判断しました。貴方が必ずしも無関係だとは思えないので」
「は、はぁ……」
ブラッグの一声で、私ははっと我に返り、自分が思わず口走っていたことを撤回しようとした。
しかし彼女は、やはり私には話しておくべきだと言った。無関係とは思えないという言葉に、多少の引っ掛かりを覚えつつも、私は彼女の言葉の続きを待った。
「実は貴方が保護されたエリアでは、破砕者の変死が多発しています。その破砕者の死体は、自分の周辺に血を撒き散らして死んでいるのです。スクラッパーズによる外傷などはみられませんでした」
少し聞いただけでも、それが妙な話だというのはよくわかる。
あの時私が襲われたような、あのスクラッパーズに殺されたとしたら、恐らく私の足にもあるような火傷の跡があるはずだ。
それではないとするなら、一体何が死因なのだろうか……血を撒き散らして死んでいるとなると毒だろうか。
「毒が空中に散布されていたという可能性は考えられないですか? それも劇毒で摂取した途端に死に至るような……」
『もしそうだとしたら、今頃マスターだって、助けに来てくれたあの人だって、こうして元気に動けないと思うのですが?』
そして最後に『それに毒が散布されていたなら、私がいち速くマスターに知らせしてますよ』とまで言われてしまった。
全く反論する隙もない。どこまで高性能なのだ、この右腕は。
「その通りです。私にも全く分からない事がたまに起こっています。北の方へとスクラッパーズを討伐しに行った遠征隊が、一晩明けてみると消息を絶っていたり……」
具体例を挙げ始めるとキリがないらしい。
他にも、何者かによってズタズタに引き裂かれた斬死体が見つかったり、消化液のようなものを吐きかけられたからか、死体が人の形なりを留めていないものもあるという。
「……というように、僕達破砕者はスクラッパーズを屠りながら、彼らについて一切わかっていない連中だってことさ」
――――ウゥウウゥゥウゥゥゥン!!
その時、施設内部に喧しい音量のサイレン音が鳴り響く。私は唐突な大音量に、耳を塞いで周囲をキョロキョロと見回した。だが、私の目の前にいる2人は、私のように耳を塞いだりしていない。
『スクラッパーズ・オシリス襲来! スクラッパーズ・オシリス襲来! 施設内部で戦闘を行える者は、直ちに現場へ直行せよ! 繰り返す、施設内部で……』
「……だそうだよ?」
自分の施設が攻撃されそうになっているというのに、この人物はさも他人事のように物を言う。そんな様子の爽器の頭から、スパンと鋭い音が鳴り、彼の姿勢が一瞬だけ歪んだ。
あまりにも唐突で一瞬の出来事であったため、何が起こったのかと思えば、優里が目にも止まらない速度で、爽器の頭に拳骨を食らわせた際の音だった。
「新人破砕者の、現場指揮と責任をとるのはアンタでしょ~が! どさくさに紛れて現場監督をさぼろうとしたって、そうはいかないわよ!」
「イタタタ……。視界がグルグル回ってる……」
「さぁ、つべこべ言わずさっさと行く! 事態は刻一刻を争うのよ! 士君……で合ってるわよね? ついていらっしゃい!」
恐らくは、先程の拳骨が原因で、軽い脳震盪でも起こっているのだろう。しかし、その華奢な細腕から、一体何をどうすれば目に見えない速度の拳骨が飛ぶのだろうか……?
……その考察は追々にしておこう。先程の放送にもあったようにこの施設に、スクラッパーズが接近してきているそうだ。優先するべきは、拳骨の考察よりもスクラッパーズだ。
「あの、戦力になるかどうかはわかりませんが……何とかなるんでしょうか?」
優里に引きずられて戦場へと急ぐ爽器に、私が恐る恐る尋ねてみた。流石にあの時とは違う、あの時はたまたま運が良かっただけだ。
私の言葉を聞いた爽器が、首をブルブルと振るってめまいを直した後、穏やかな笑顔を見せた。……優里に引きずられたままの体勢ではあったが。
「大丈夫。僕の目が届いている間は、絶対に仲間を死なせるような真似はさせない。そして何より……君は類稀な才能の持ち主だ。しっかり磨けば、ちゃんと眩しく光るよ」
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