意志
キュリアの兄であるドラゴンが飛び去ったあと、俺は、一番怪我の多いキュリアの元へ急いで駆け寄った。
「おい! キューちゃん! キュリア! しっかりしろ!!」
「……にぃ」
キュリアは、そう力のない声でそう言いながら目を覚ました。どうにか意識を保ちながら、ボロボロになった右手で俺の頬を触り、ニコっと笑う。
「きゅー、みんなと仲良くなりたくて、にぃと会う前にもいっぱいの人たちとあったよ。
でも、きゅーがドラゴンだったから……、みんなきゅーのこと殺そうとしたの」
「今言うことじゃねぇだろぉが……絶対助けてやる! 今は喋んじゃねぇ!!」
全身傷だらけになったキュリアの体は、いくら竜の血が流れているといっても、動くことすら難しいほど衰弱していた。
これも全部俺のせいだ。俺がキュリアを1人にしたから、いくら人の姿だといっても、それだけで安心した俺が馬鹿だった……。
「にぃが……初めてだったの」
ふと、キュリアが口を開いた。
「きゅーを助けてくれて、きゅーと仲良くしてくれて……きゅーに幸せをくれて……きゅーと一緒にいてくれでっ……!
きゅーは…きゅーはにぃにどう恩返ししたらいいのっ……?」
「キュー……ちゃ……」
俺は、何もわかっていなかった。キュリアたちのことを簡単に考えすぎていた。キュリアは強い。俺や、兄のドラゴンが思っているよりずっと……ずっと強い。
第一、俺の方が助けられてばかりなのに、何を言ってるんだこの小娘は。
「俺なんか、俺なんかでいいのかよ」
両腕に抱えられたキュリアの頰に、一粒の雫が落ちる。
だが、それは既に流れていたキュリアの涙と重なり、見えなくなった。
「うん、にぃが……いいの」
キュリアはそう言ってニッコリと微笑む。何の迷いもない、真っ直ぐと俺の目を見ながら発した言葉だった。
その後、キュリアは俺の腕に身体を預け、ゆっくりと瞳を閉じた。
眠ったキュリアから、スー……スー……と安心しきった寝息が聞こえる。
この子は俺が守る。守れるほど強くなりたいと願った瞬間だった。
「リコ……! るんは無事か!?」
「キュリアが守ってくれたからなんとか……な」
るんるんが身体中についた砂埃を払いながら、よたつきながらも立ち上がる。
リコも同様に、フラフラしながらもその場に立ち上がっていた。
キュリアが庇った、るんるんはそう言ったが、だからと言って無傷というわけでもない。
俺はキュリアをそっと降ろし、2人を同時に胸元へと抱き寄せた。
「ごめん……、ごめんな……」
「ご主人様が謝るこたぁねえよ。オレらの注意が浅はかだっただけだ」
「リコも」
2人は、俺の胸元から顔を出すと、俺の頰に頭をこすりつける。
そして、ゆっくりとしゃがんで2人を手放すと、今度は俺の方が頭をよしよしと撫でられた。
「そんな落ち込んでるご主人様見たって……誰も嬉しくねーよ」
ふと顔を上げると、悪戯じみた笑みをしたるんるんが、俺を見下ろしていた。
身体は傷だらけ、それでも俺を元気づけようと必死でいる。
違う、……俺は彼女たちに無理をさせるためにきたわけじゃない。
「そうだな。俺がしっかり……しねぇとな!」
るんるんの言葉のおかげで、自分のやるべきことを思い出すことができた。
キュリアもまだ安心できる状態でもない。
兄であるドラゴンが放置していったところから、龍にとっては大した怪我ではないのかもしれないが、万が一の可能性だってある。
俺が、3人のリーダーでないといけないのだ。
だが、この街で魔物を扱っており、上位種の存在にも詳しい人物……そんな人、俺には1人しか心当たりがない。
3人をその場所へ連れて行くことに躊躇しながら、俺は未だに立つことで精一杯なリコルノとるんるんに目線を向けた。
まだ走るのは勿論、歩くのも出来るかわからない状態だ。
「ここにくる間に、狼二匹も一緒に連れてきた。るんとリコはこいつに乗って、俺についてこい」
そう言って俺はキュリアを丁寧に背に運ぶ。
流石に俺では三人を同時に背負うのは厳しいからな。
俺1人では対応できない事態のために、一応狼たちも連れてきておいた。
リコルノとるんるんを狼の背へ運び終えると、俺と狼は共に走り始める。
目指す場所は1つ。
あのおっさんのことだ、不安なところは多々あるけれど、もう他にどうしようもない。
俺は考えるのをやめ、全速力で街の中を駆けていった。
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