合流


「ペガサスは雄だけ、ユニコーンは雌だけ……。それだけ聞いたってそう簡単に出くわす生き物じゃねぇだろ」


 俺ははぁ……、とため息をつく。そして手に持っている本のページを1枚めくる。だがあまりの字の量に頭が痛くなったため、そっと本を閉じた。

 因みに、文字は微妙に癖があるだけで日本語とさして変わらなかった。

 おそらくあの手紙に書かれてあった神様の字も、書き慣れてない日本語だったのではなくここの文字だったのだろう、字がよく似ている。


「なんか魔物も種類わけされてるみてぇだな。上位種の魔物と、あとは哺乳類型、鳥類型、魚類型、その他もろもろ」


 どうやらユニコーンやペガサスも上位種のようで、そこに分類されていた。

 まあ、見た目とか雰囲気からそうだとは思ってたけど。

 街の中を歩きながら本を読んでいる俺は、上位種について書かれているページまで飛ばすようにページをめくる。

 そして、小さくそこに書かれている文字になんとなく興味を惹かれ、自然とそこへ目線を落とした。


 『魔物の中でも知能が高く、上位種な魔物は人間と心を通わせることで姿が変化する現象が稀にある。

 だがそれは成長段階の幼体にしか起きない現象であり、成体の魔物が姿を変えたという現象は未だに目撃されていない。』


 そこにはそのようなことが書かれてあり、この現象について実際に経験があった俺は深く共感した。

 これで頭の端で悩んでた謎が一つ解けたわけだ。まあ理由については一切書かれてないから納得はできねーが。

 でもこの本のおかげで俺の身の危険も少しは下がったと思う。魔物の討伐依頼を俺が受ける日が来るのもそう遠くないかもしれない。

 俺は先の未来がほんの少し明るくなったことに気分を上げると、その場からルンルン気分で駆けていった。





「というわけで、依頼を受けにギルドまでやってきたけど…」


 ギルドの建物の入り口を開け、中に入る。すると、目の前に映る謎の光景に俺は目を疑った。

 なんだか見たことのある……、金髪少女に赤髪幼女。

 俺が外に出るまでは家の中にいたはずなんだけど、なんでこんなとこにいるんだ? 因みに依頼を受けてこいなんて俺は一言も言っていない。


 中央にあるテーブルを囲んだところに並んで座っている2人に目線を向け、俺がそのまま近づいていくと、当然その2人も俺に気づき顔を上げる。


「にぃ!!」


「……じゃねえ、なんで2人してこんなとこいんだよ」


「実はですねぇ……。こんな珍しい依頼を発見しまして……!」


 上機嫌な表情で依頼書を掲げたルナはキラキラした瞳を俺に向け、そのまま依頼書を俺に押し付けた。

 不意をつかれた行動に、俺は目を逸らしながらルナから距離をとると、腹部に押し付けられた依頼書を地面に落ちる前に手にとる。


 そんなルナから渡された依頼書の難易度を見てみると、なんと最高難易度の星15個。

 俺はすぐにその依頼書を返しに行こうとすると、慌ててルナが俺を抑えにかかってきた。


「ちょ、ちょっとまってください! 内容……内容みてください!」


「ふぁ!? わ、わかったから落ち着けばかっ!」


 あまりの勢いに後ろに倒れそうになるも、なんとかそれを堪え俺はもう一度依頼の方へ目を向けた。

 内容は……どうやら討伐依頼ではないらしい。

 特殊依頼というその名の通り特殊な依頼の場合に位置付けられる種類に分類されていた。

 対象はユニコーンの子供……ここまで読んで俺はまた依頼を返しに行こうと方向転換しようとした。


「ま、まって! どうしてそうなるんですかぁ!」


 見た感じたしかに難易度はそこまで高くないように見える。俺の場合とくにそうだ。

 だが俺は思った。これほど出来上がってるフラグはないと……。

 今までの俺の行動からして神様がなんか弄ってんじゃないかと疑ってしまうレベルだ。

 ここで思う通りに動いてしまうのは全くもって面白くない。

 難易度星15となると報酬金もたくさんある……と思うが、そんなことで目を眩ましてしまうほどまだ落ちぶれちゃいない。

 ここはなんとかルナを抑えて違う依頼を受けよう。そうしよう。


「にぃはあいす食べないの? おいしいよ?」


 そんな俺の様子を見たキュリアは、首を傾げながら俺の方へ食べかけのアイスを差し出してきた。

 が、俺はそれをそっとキュリアの顔の近くまで戻し首を横に振る。

 気持ちは嬉しかったが、今はそれに惑わせられてる場合ではない。


 とりあえず俺は、ルナの勢いに押されないよう、その場から離れた。

 そして難易度の低い依頼を手に取ると、それと交換するようにルナの手に持っている依頼書と入れ替える。


「ユニコーンの子供とかそう簡単にいるわけねぇだろ。こういう依頼ってのはなぁ、簡単なものからコツコツとやっていくもん……」


「ユ、ユニコーンは見つかっていますよ? 怪我をしてるから保護してくれと書いてあります!」


「なら依頼者が保護してやればいいじゃねぇか。それが依頼できてるってことは怪我してても相当危険だってことだろ? 諦めな」


 ……勝った。そう心の中でガッツポーズをとると、俺はルナから渡した依頼書を取り上げ、それが簡単な依頼だと確認するとそれをポケットの中へしまった。

 因みに依頼の内容は近くの盗賊の撃退とのことだった。

 正直俺とルナだけじゃこれですら厳しい内容かもしれない。

 いや、完全にキュリア頼りになる未来がはっきりと見える。これは俺も多少鍛えないとな……。


 俺は1人うんと頷くと、身体も少しずつ鍛えていこうと密かに決心したのだった。

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