ハッピーエンドレス
じゃー
第1話 天使の名前はソラス
「あなたに幸福を持ってきました!!」
「…………」
突然窓から登場した少女に俺は言葉を失った。
人間本気で驚いたら、真顔になるんだな……。
「私はソラスです」
「疲れてるのかなー……」
現実逃避しながら布団の中に潜り込む。
「その反応おかしくないですか?」
それでも幻聴は消えてくれない。
「もう!話聞いてください」
そうして俺の幻覚は俺の布団を引っぺがす。
「お前なんだよ……」
「天使です!」
うわー……。それどこの悪徳宗教だよ。
天使に幸福とか、そんなものに釣られる俺ではない!
「その顔は信じてませんね?」
いや、信じるとか信じない以前の問題なんだよな。
「超信じてるから帰ってくんない?」
「何でそんなに鬱陶しそうなんですか!?」
「逆に聞くが、突然窓から現れた人物を信用しろって無理があるだろ。それに幸福になんて興味はねーよ」
人並みには幸せになりたいが、過度な幸せは求めていない。
「そんな人間はいません!」
「そんなこと言われても現に目の前にいるだろ」
「それに――――――私の話を聞いたらそんな事も言ってられなくなりますよ、棗(なつめ)さん?」
「………………」
その表情には脅しにも似た何かを感じた。
「そんな顔をしないでくださいよ。最初にも言いましたが、私は幸福を持ってきたんですよ?」
「はあー……」
思わず溜息を零す。
「溜息をすると幸せが逃げちゃいますよ」
「だとしたらお前のせいで幸せじゃなくなったわ」
「そんなわけはありません。私は天使ですから」
「…………」
その謎の自信がある意味清々しかった。
「それでその話とやらの内容は?」
「棗さんには言っておかなければならないことがあるのです。
あなたの幼馴染の秋菜(あきな)さんが誕生日の前日の午後5時12分に死んでしまいます」
「ッ――――――!!」
驚きと動揺は自然と表情に表れてしまった。
俺と秋菜は家が隣同士で付き合いも3歳の頃から今までだ。
正直に言うと、俺は秋菜の事が好きだ。
しかし、幼馴染の期間が長すぎてあと一歩踏み出す勇気がないのだ。
だからまだこの『幼馴染』という関係に甘んじている。
いきなり現れた自称天使は急に秋菜が死ぬと宣告してくる。
意味が分からない。秋菜の誕生日の前日というと明日じゃねーか。
それに、なんで秋菜が死なないといけない。
殺意にも似た感情が心の底から湧き出てくるのを感じた。
「勿論、寿命で死ぬわけじゃありません。事故かあるいは他殺かそれはわかりません。しかし、秋菜さんが死ぬことは決定してしまっています」
「ふざけるなっ!!!!冗談でも言っていい事と悪い事があるだろ!何が『幸福を持ってきました!!』だ!!!」
言葉にならない苛立ちを自称天使にぶつける。
前後感覚がわからなくなり、立っているのかさえわからない。
本当に苛々する。
「はい、――――――だから私が来ました」
どこまでも落ち着いていて楽しそうに自称天使は笑う。
「お前が来て――――――」
「話は最後まで聞いてください。このままだと秋菜さんが死ぬのは確実です。
でもあなたは彼女の死を事前に知っています。阻止することが出来ます」
「…………」
「お前の事なんて信用できないし、秋菜が死ぬとも思えない。その時点でお前の話を信じる理由は全くない、帰れ。
そもそも俺はお前が天使というのにも疑問を抱いてる」
生まれてこの方神なんてものを信じたことなんてない。
「天使の証拠はあります」
そう言うと、彼女の背中から小さな羽が姿を現す。
「これが天使にだけ授けられる――――――『神秘の羽衣』です。信じましたか?」
神秘の羽衣とか知らねーわ。どこの中二病設定だよ!!
ツッコミどころは置いておくとして、彼女の背中から人間ではあり得ないものが出てきたのもまた事実。
戯言は信じないが、目で見たものは信じるしかない。
「天使か…………」
ということは、秋菜が死ぬというのも本当なのかもしれない。
「ということで、あなたに一つの能力を授けましょう」
「は?」
意味が分からないことが起き過ぎて、驚くことしかできない。
「能力……だと?」
「能力です。固有名称は『ハッピー』です」
「その能力があると幸せになれるとでも言うのか?馬鹿馬鹿しい……」
「そのような便利な能力ではありませんが、あなたは幸せになれると思いますよ?」
「…………その能力があると秋菜を救えるのか?」
「それは棗さん自身の頑張り次第ではありますが、可能だとは言えます」
まだ半信半疑ではあるが、秋菜が死ぬ可能性が少しでも減るのなら…………。
「その能力の内容と代償は?」
「代償なんてありませんよ。なんせ幸福ですから。そして能力の内容は――――――」
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