残り十二キロ
裏側。残り十二キロ。
右の聴覚を失った後、すぐに二枚目の黒の上塗り札を使用した。おかげで、左手の指先の感覚がなくなりつつある。左手による空間能力は低下したとみていいから、今度からは腕に山札を縛り付けて右手でカードを弾かなければならないだろう。
もはや後ろの班との連絡もつかなくなった。彼女たちの無事を祈りつつも、俺は目の前に敵が現れたので、そちらに集中する。
今度の敵は二メートル近い巨体の持ち主だった。それも二体。一体はお決まりなのかは知らないが、巨大なのこぎりのような武器を所持している。トロールにハンマーって感じ。もう一体はこれまた規格外なマシンガンの銃口を俺に向けている。姉さんのいる場所に近づけば近づくほどめんどくさい敵が出てきている気がするのだが、いいだろう。俺も本気で相手してやる。俺の能力を限界まで使う機会などそうそうないからな。ましてや全面対決だ。本来裏である俺が表だってしゃしゃり出る柄じゃないのは承知の上で極めて影を使いこなす戦い方だからよーくみてろ。
俺はカードを引く。五枚の中に一枚だけ真黒なカードがあった。ニヤリと思わず口元を緩めてしまう。黒く漆黒に染め上げられた黒はどこまでも黒いが、そこに記されている絵柄は判別できる。光に当てると、きらきらとその輪郭だけがひかる。どうやら超レアカードを引き当てたようだ。
そこに書かれていたのは死神だった。俺もこのカードを使うのは初めてだ。どうにかなっちまうか知れねえが、どうなってもしらない。俺は確実に行くべきところに行って、やるべきことをやるだけ。
「いくぜぇ……デカブツ。とっととそこをどけええええ!!」
俺は奴らの凶悪な攻撃をすべて受けた。だが、もはや体は実体化していないので受けたといえるかも怪しいダメージだった。地を蹴り、風速で動き回る。攻撃という攻撃のそのすべてを受けられそうなだけ受けてから俺は二回ほど鎌を振り降ろした。最初から俺には二体の魂しか見えていなかったから、この一撃を当てるのは難しくなかった。むしろ敵の攻撃を受ける方が難しかった。まあ、この技はこういう技みたいだから仕方ないんだけどさ。
俺は死神から俺に戻り、また歩き出した。右の聴覚と左腕にはもう感覚がなかったが、俺は前を見据えて歩いた。
俺の失われつつある感覚だと、姉さんはもう目の前のはずだ。
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