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神を相手取るならばそれこそ神しかいない

 明後日後。俺が姉さんに真実を聞かされ、マザーから真実を聞き出して星に救ってやると宣言してから翌々日。明後日になってようやく俺は作戦の準備を始めた。一日空けたのは全員が心の整理とか体の休息とかを求めていたので――もちろん、この俺もそうだ――一日ぐらいなら大丈夫と踏んでオフにしたのである。白が、姉さんが攻めてくることを一部は不安視したが、可能性は限りなくゼロに近いと俺は判断した。確かに俺は姉さんから逃げてきた。だが、姉さんたちの方も俺たち黒の組織のアジトを知らない。なぜなら日々の生活を営んでいる俺たちでさえ現在位置を正しく把握していないのだから。ザキならなんとなく掴んではいそうだが、たとえそうだとしてもマザーがそれを許すとは思えない。よってここの安全は保障されている。俺は休息明けでぼやけているだろう脳に刺激を与えてやろうと思い、メールを一筆したためた。


「さてっと、こんなもんでいいかな。うん、よし送信」


 >メンバーへ。

 >先日の作戦はご苦労様。おかげで滞りなく完遂できた。改めて感謝を。

 >感謝といえばその後の白との一戦に関しても改めて、ありがとう。エンは朱に無事帰れただろうか。また何か機会があれば、その時はよろしく。

 >さて、では本題。この度の事件は無事に解決したが、この問題の発端となった問題がまだ解決していない。それどころかこの事件を事件だと思って、抱えて行動しているのはごく一部だ。内容は非常にデリケートな、プライバシーと人生が掛かっているからとしか言えない。説明不足のままの任務となる。だからここから先は自由参加だ。参戦するも、しないでこのままアジトで次の依頼が来るのを待つのも自由だ。付け加えていっておくと、俺はエクステリアに遭遇し、戦闘した。みんなもあの教室で姿を確認ぐらいはしたと思う。察しの通り白がここ数日過激的に、執拗に黒との交戦を好むようになったのはこの初めの問題とエクステリアが関わっている。俺から公で言えるのはここまで。あとは個別に俺をなんとかしてコンタクトを取るように。ちなみに俺の部屋に来たい奴のために部屋の地図を添付しておくが、十二回ノックしても出てこなければ、それは留守だから他を当たってくれ。

 >話は以上だ。今回は俺の不手際のせいでみんなに迷惑を掛けてしまった。末筆ながら謝罪を。

 >形式的にはこれで任務完了となる。お疲れ。解散




                                黒の裏側より





 俺は手元にあったエナジードリンクを手に取ると、一気に飲み干した。五百ミリリットルの缶の内容物をすべて体内へ流し込んだ。


 それから机の横の引き出しに手を伸ばし、開錠してからその中にあったいくつかの山札を机に並べた。これらのカードは今までの使い捨てのカードとは大きく異なる。使って投げ捨てることも、発動して消滅させる必要もない。貰い物の山札とは違う原点オリジナル山札デッキ。俺自身の、数少ない所有物と呼べる能力に関する道具。借物コピーを使用するのは俺の能力はカードという物を媒介して発動するものだから。逆に言えばカードがなければ俺は能力者とは呼べない。ただの死に損ないだ。即出来でその辺にあるものを四角く切り取り、カードとして使用することもできるがそれは原石を直接使用する宝石のようなものでそこに美しさはない。予め磨き、洗練させることによって自分で操作コントロールすることができるのだ。自然をそのまま使おうなど、人間業ではない。それこそ仙人にでもならない限り無理だろう。人間は自然の力の前では圧倒され、想像の及ばないところで力が発生するのでそれに対処できない。未知の力といえる。人間の使える力なんてものは所詮自分たちの器に収まる程度のものでしかなく、世界に対しては無力だ。


 そう、神を相手取るならばそれこそ無謀。


 俺が想像するに姉さんはもう神に近い力を手にしていると思う。どれだけ黒の時代でエースと呼ばれるほどの能力者であろうとそれは白の概念では通用しない力だ。黒の相手を騙す力と白の世界を創って嘘を曝け出す能力。真逆とも思えるこの二つを同時に扱えるだなんて、俺には神にでもなったとしか思えなかった。白になれば黒は捨てるのだと思っていた。彼女は白になった。だから白の能力しかないと思っていた。この矛盾を解決できるのは世界の創造主である神以外にいない。


 そう、神を相手取るならばそれこそ神しかいない。


 俺の持っているこの原点の札はマザーから直接もらったもの。俺の適性を見抜いたマザーから受け取り、この能力を使用可能な現実のものとしたのが俺の親である姉さん。正真正銘能力者オレ専用カードというわけだ。俺に馴染むように作られ、俺がもっともこのカードにある能力を最大限発揮できるように仕込まれた札。神ではないが神のお墨付きという点では神に近いと呼べるはず。俺はこれで姉さんと決着をつけ、もうこれ以上星に手出しできないようにする。そうできなければ、訪れるのは絶望という名の悲劇だ。


 コツコツコツ。コツコツコツ。


 三回ほどのノックが二回あった。どうやら来客らしい。ノックを再開させようとする気配がしたので俺は声を掛けた。もちろん、原点オリジナルは全て能力の中にしまってから。

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