Turn 4 B:4 W:6

逃亡補助≪ヒトダスケ≫

「お待たせしました! ミソノ参上です! 大丈夫ですか? シャドウは死んでませんか?」


 ミソノは立ち上がりながら予備の弾倉と空の弾倉を入れ替えており、その顔を見ればその言葉とは裏腹に俺のピンチを楽しんでいるようにも思えてしまう。いや、楽しんでるだろこいつ。

 

「遅くなったな、シャドウ。初めての空間移動で少し戸惑ってな」


 やあ、スタード。お前が来てくれると心強い。しかし、初めてってどう言うことだ? 時空間移動ならお前はしょっちゅうやっているだろう?


「くそっ」


 姉さんは唐突な敵の増援に対抗すべく動き出した。具体的には教室の備品である机の上に椅子を上げたものを三つほど作成。瞬く間にその掃除前の机椅子は白装束の人型エネミーへと姿を変え、すでに手にしていたライフル銃の銃口をこちらへと向けた。それが発射されずに暴発したのはマの三姉妹の功績他ならない。


「コルク!」

「風呂栓!」

「スケジュール!」


 三人が教室に入ると、その後ろにいた十六夜からすぐに指示が飛ばされ銃口を塞ぐために各々詰め込んだ。一人目はコルク。二人目はお風呂の栓。三人目は……ネマ。おい、お前は最後に何を詰め込んだ。スケジュールは詰め込むな! 余裕をもったスケジュールにしろ!


 閑話休題。


 全てを見透かされたこのような連携に姉さんが珍しくたじろいでいるのをみて、スタードは空かさず命を出す。どうやら俺が不在の穴を埋めていたのは彼のようだった。


「よし、ミソノ。シャドウは任せた。こっちは任せておけ。では、手はず通りに」


「了解! ほら、行きますよー」


 ミソノがすぐに俺の側へ姿を現し、手を取って走り出そうとする。しかし、姉さんも諦めの悪い人で追撃を再開する。だがこれもすぐに中止した。姉さんの困惑した表情は先程の俺とよく似ている。


「ほ、ほら。さ、さっさといっててください。この教室は今札幌ドーム位の広さへと改造しましたから。エクステリアに見せつけるのが精一杯ですが、足止めぐらいにはな、なります」


 俺は頷くと、ミソノの手をしっかりと握って教室を飛び出した。俺の娘がいつもよりも顔を紅潮させて、嬉しそうにしているのは気のせいだと思いたいが。


 廊下に敵影はなく、下の階に降りたところで数体に囲まれた。俺は戦闘用に構えようとしたが、ミソノがその手を制した。とうやら、俺の手持ちが残り少ないことに気づいているらしい。


「貸してあげますから、これを使ってください」


「ファイブセブンか。弾数は?」


「三十カケル無限大!」


「サンキュ。――じゃあ、ありがたく借りるぜ」


 俺は敵に向けて一発放って感覚を覚え、敵の弾をカードで防ぎながら下の階へと降りていき、ミソノも後に続いた。銃で敵を牽制しながら、カードで銃弾を防ぐ。それでも何発かは貫通してしまい、穴が開くので結構な数を消費した。


「それで、これからどうするんだ?」


 俺は階段の踊り場から下へ向けて放ち、敵の頭を撃ち抜がら作戦の概要を知っているであろう愛娘に尋ねる。


「地下に行く。この学校の給食室」


「そんなとこがあるのか。でも、どうやって脱出する」


「協力者がいる」


 協力者?


 俺は思いもよらぬワードに声を出すことを忘れていた。


「実はスタードさんでもザキさんでもこの世界に入り込むことはできなかったんですよ。もちろん任務は成功しました。問題はシャドウと連絡が取れなくなってしまったこと。すぐに屋上に行きましたけど、そこには誰もいなくて。ザキさんだけが異常に気づいたんです。で、にっちもさっちもいかなくなったところに彼女がきました」


「彼女?」


 俺たちは道が開けたことを確認すると階段を駆け降りながら話した。


「来たというより私たちが彼女のところへ行ったていうのが正しいですかね。連絡が取れないことを不審に思って私たちが屋上に向かい、でもそこにはシャドウの姿が見えなくて。作戦は大成功なのに何がどうなっているのか。私とかが分からなくてパニックに近い混乱が起こるその直前に、すぐ近くにいた彼女が私たちを呼んだんです。彼女とは、以前お会いしている方なので、ご存じだとは思うんですが――」


 階段で一階についた俺たちはそこで会話を辞めた。いや、正確に言えば一階手前の踊り場、一階と二階の間のところにで足を止めたっていうのが正しい。足を止めた理由は敵がいるからであり、上の階で遭遇した人数がどうりで少ないはずだと納得できる人数が下の階の廊下を何かしら白いアイテムを――基本的には白い服を着ている――身に着けた人が頻繁に往復していた。だからと言って上の階に戻り、発砲音によって下の敵を呼び戻しても仕方がない。俺とミソノは一度だけ目線を交差させて、一気に駆け降りた。わざと音を立てて相手に標的を知らせるように、狙いやすくなるように立ち振る舞った。俺たち二人は薬莢を飛ばしまくった。視界に入った敵が引き金を引く前に、弾を装填する前に飛ばして無力化し続けた。相手が出てくる前に相手を予想してその相手をどちらが撃つのかという役割分担まで決める。もちろん一切声を出さずに。だから同時に同じ相手を撃った時は少しむっとなる。顔を突き合わせてあれは俺の、私の相手でしょ! と少し張り合ってから今度は逆方向を向いて敵に一発。どうやらこれで戦意のある敵の大方が倒れ、先に進むことができるようだった。


 目的地はこの学校の地下にある調理室。すみやかに給食運搬専用エレベーターに乗り込むべく扉の前に立ち、ミソノが近くにいた白を銃撃している間に俺はボタンを押してその扉が開くのを待ちわびていた。俺が二人、ミソノが四人ほど武器を撃って無力化した後にようやくエレベーターの扉は開いた。俺たち二人は飛び乗り、先客がその扉をすぐに閉めた。俺は先客、つまりこの世界にミソノたちを連れてこさせ、俺を連れ出してくれる救世主である人物を見て驚いた。先ほどミソノが言っていた通り、俺は彼女を知っていた。そして知り合ったもごく最近だ。だからこそ、俺は面食らってしまったのだ。


「加賀山星……どうして、ここに」


 彼女はその美しい黒髪を以前と同じように誇示しながら振り返って言った。


「あなたが私を助けてくれると聞いたので」

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