Black is bad to her.

小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】

Turn 1  B:2 W:2

予感ってほど魔術めいたものではなく

「美しい」と聞いた時、人はその後に何を連想させるのだろうか。美しい花。美しい夢。美しい声。美しい話。美しい光。美しい宝石。美しい女性。美しいエトセトラ。

 

 何を連想しても、選択した非修飾語がなにであっても俺としては一向に構わないのだが、きっと人は美しいと感じたその瞬間、その直後にはその美しいと感じたもの、または現象の名前が頭の中か心の中にあるはずなのである。もしかしたら既に口にして外に出ているかもしれないが、それでもその何かが自分のどこかに存在しているはずなのである。美しいと思わせた直接的、若しくは遠因がどこかに。



 しかし、俺はそれを見つけることができなかった。



 俺が初めて彼女を見た時、俺は確かに美しいとは思ったのだが、その後が続かなかった。美しかったのは彼女のやや潤んだ瞳なのか、短くとも端麗な黒髪なのか、美人よりも可愛いが的確な顔立ちなのか、それとも彼女の存在そのものなのか。とにかく俺はその少女の何かが美しいと思ったのである。でもそれが具体的ではない何か抽象的なものであり、言葉にできなかったことから俺はそれを瞬時にも、数分後にも、事件解決後でさえも特定できなかった。だからだろうか。俺はなにか嫌な予感がしたのだ。いや、予感ってほど魔術めいたものではなくて、気がするって言う程度の自意識過剰なやつ。まあ、分からないことがあるって言うのがひどく不愉快で、嫌な気分になっていたってところ。


 しかし、俺はもう少しこの直感に従うべきだった。


 結論から言うと、俺のこの直感は当たっていたことになる。数えてみると永らく他人の人生に関わってきたことになるが、これはそのなかでも相対的数値が非常に少ないことであり、なんとも珍しいこと。俺の勘はだいたい当たらない、使えない、探偵的代物ではないのだ。だから、今回の話はそこから始めようと思う。



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