今日も天魔は地獄で笑う

ジロジロ

プロローグ:天魔降臨

意識が混濁する中、俺はその場所に立たされていた。

周りからは人の気配、、、そんな事がある筈がないのに。


だってここは俺の部屋。

4,5畳の俺の世界。

ベットとPCそれだけの世界。

そう、ここはマイルームなのだから。

他人なんている筈がないのだ。


の筈が・・・なんで立っているんだっけ?と、そこに思い至る。


なぜか意識は覚醒せず、焦点が定まらない。

しかしながら気持ちが良く、とてもいい気分であった事を今でも覚えている。



人の気配がなくならない。

と言うか複数人からの視線を感じていた。

それも憎悪に満ちたものが多いように思える。

身体が直観的に危機感を持ったのか、俺は酩酊状態の様な状況を脱する事ができた。


覚醒した世界には・・・やはり他人がいた。

それも複数人。感じた気配と一致する。

そして、ここは俺の部屋じゃなかった。


だけど、その状況を見て一つの安心感を得るに至る。

何故なら、そこに居た人々には羽が生えていたからだ。

白い、、、とても美しい羽が。


故にこれは夢である。

そう、結論に至れたのであった。




「―――やるぞう、てんま、、 やるぞう!」


!?


「おい、やめろ!」


不意の言葉に思わず反応していた。

今までブツブツと何かを言っていた様なのだが、対面に立つ羽人間が俺の地雷を踏み抜いてくれたのだ。


「水鏡と呼べ!」


俺の発言に今度は外野がざわつく。

そして羽人間が睨みを利かせてきた。


無言の圧力。

しかしそれは一瞬の事。


「黙れ天魔よ、貴様に発言権など無い!」


羽人間が発する声音には、初対面でも理解できる程の憤怒が込められていた。


はい、その迫力に気圧されましたとも、、、


外野からもそれ以上の怒気を感じる。

中にはむせび泣く者もいた。


なんだ・・・これ・・・状況が全く呑み込めん。

というか・・・


起きよう。

俺にはその道しか残されていない様だった。



―――パン!

ほっぺを引っ叩く。

じんわりとした痛み、実にリアルである。


パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!



・・・いたい。。。



「天魔よ! 何をしている?

 貴様、罪を理解・・・ 贖罪のつもりか?」


困惑した表情で覗き込んでくる羽人間。

だが、俺はもっと困惑していた、


痛みから得た情報は、これが変わった夢であるという事。

そして、覚めないという事。

羽人間が口にした情報からは・・・言ってる事が理解ができなかった。


なにしろ情報量が少なすぎる。

そして、発言権が無いらしかった。


周りの雰囲気や状況から察するに裁判を受けている・・・っぽいのだが。

弁護側に羽人間は存在しない。


先程から語り掛けて来る羽人間、判事っぽい存在はと言うと・・・

俺への怒りを隠そうともせず、何より罪と言い切っているのだ。


ふざけている。

ふざけている夢だ。

だってさ・・・罪ってなんだよ。



だから言ってやった。


「は? 何言っての? あんた?

 意味が分からないんですけどー! 罪って何?」


俺のおどけた態度に羽人間の顔が見る見る赤くなる。

外野からは罵声が漏れ出した。


返答としてはこれが精一杯であった。

罪ってなんだよ? それに、さっきから『てんま』って何?

本当に意味がわからないんですけど。

認められるかそんなもんである。

贖罪などするわけがなかった。


「静まれ!」


その言葉に外野が黙る。

俺もビビる。


真っ赤な顔がプルプルと震えていた。

勿論、羽人間(判事?)の事である。


気付けば判事さん激おこだった。

外野からの視線もものすごく痛く感じる。


「貴様には相応の罰が待っている。

 堕天の苦しみ、人の身で知るがよい!」


そんな事を判事が言ってくる。

俺は空気を読んでビビッて喋られない。


「願わくば、かつての友が貴様を討ち滅ぼす事を、、、

 せつに、、、 切に望む・・・」


その瞬間、羽人間達からは怒気が消え、どこか寂し気な表情を各々が浮かべていた。

俺にはもう何が何だかさっぱりである。。。


暫しの静寂。

そして場の空気が変わった。


判事が再び俺を睨む。

意志を固め、一呼吸をおいて叫んだ。


「天に仇なすものに永遠の裁きを!」


号令は周りに伝播する。



「「―――天に仇なすものに永遠の裁きを!!」」



俺はその号令を忘れない。

俺を堕としたその声を。




ふと気付けば周りには誰もいない。

そこは見知らぬ世界。見知らぬ森の中。

堕天は完了し、一つの魔が誕生していた。


天魔 水鏡や・・・ゲフンゲフン!

天魔 水鏡 降臨の瞬間である。


まあ、この時の俺はその事を理解していなかったわけだけど。

全てを理解するのはもう少し先の事。

そして、俺の今後を決める出会いが目前に迫っていた。

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