第212話 ■千織の転生 (タイ編 その15)

■千織の転生 (タイ編 その15)


「わたしもこのトレーラー、運転してみたいわぁ」

ヒッチハイクが成功し、トレーラーに乗せてもらって30分ほど走ったところで、突然陽子がつぶやいた。

ブッーーーッ

ミキは陽子の運転の怖さを知っているので、思わず飲んでいたペットボトルの水を吹き出す。

「だって、この運転席の高さといい、少々ぶっつけたってビクともしそうにないボディは、魅力的じゃないですか」

「こっちは大丈夫でも、ぶつかった相手は絶対死ぬって! 陽子さんが運転したら最低でも100人は犠牲者がでるよ」

「その中のひとりにミキさんも入るんですねぇ」

ミキには、なぜか陽子が、うっとりしながら話しているように感じる。


「え、縁起でもないことをしれっと言うよね。 ところでこのトレーラーはいったい何処に向かってるの?」

「さぁ・・・」

「ええっーーー。 ちゃんと確認してから乗せてもらったんじゃないのーーー?」

「まずは、危険地帯から一刻も早く遠くに脱出するのが目的でしたから・・」

「だって、それじゃ・・・」

キラッ

陽子の目が少し細くなり、奥のが怪しく光る。 いや光るというよりは閃光が走る感じだ。

ビクッ

ミキは陽子がドSであることを思い出し、それ以上言葉を続けるのを止めた。


ついさっきも、傷の手当でひどい目にあわされたばかりだ。 特に血を見せたらヤバそうなのは十分に分かった。

うかつに鼻血もだせたものではない。

トラックは一時間ほど走るとインターチェンジを下り始めた。

「あっ、千織さんの気配をうっすらと感じます」

陽子は目を瞑り、千織がいる方角を探ろうとするが、インターチェンジでトラックがクルクルと向きを変えるため、うまくいかない。

「残念、見失いました」

やはり霊視は静かな所で、腰を落ち着けて行うのが良い。


「でも、千織には近づいたってことだね」

「そうですね」

こっちに来てから、しばらくして秀一が千織の居場所を教えてくれるメールが受信出来なくなっていたため、陽子の霊視が頼りなのである。

「街中に入ったら、どこか適当な所で降ろしてもらいましょうか」

「そうしよう! ちょうどお腹も減ってきたしね」

***

**

トレーラーの運転手に乗せてもらったお礼を言うと、二人は食事ができそうなお店を探しながら歩き始めた。

一方、トレーラーの運転手は、バックミラーに小さく映るミキたちを見ながら携帯電話のボタンを押した。

「ボス、例の二人をxxで降ろしました」

『そうか。 よくやった、後はこっちで対応する』

「はい。 では、積み荷の方は予定通り、船に積んでおきます」

『うむ。 頼んだぞ』

***

**

時刻も7時を過ぎ、朝食のための屋台が、通りに何軒も店を開き始めている。

どこもおいしそうなな湯気と匂いを立てている。

さっきから何を食べようかとミキの鼻はヒクヒクしっぱなしだ。

「うわっ、これおいしそうだよ。 陽子さん、ここにしようよ!」

いろいろな料理を大皿に山盛りに並べている一軒の屋台の前でミキが足を止めた。

「そうですね。 どれも、とてもおいしそうです」

陽子も並んだ料理を眺めながら、空いているテーブルに腰を下ろした。

早速、ミキがまたタイ風日本語を使って、なにやら店の人と話をしていたが、すぐに陽子の元に戻って来た。

「陽子さん、どれも食べ放題で、なんと一人、200バーツだってさ! 夢みたいだね」

そう言うが否やミキは皿を手にすると疾風のように料理の間を飛び回っている。

「ほらほら、陽子さんの分まで取ってきてあげたよ!」

ミキが陽子が腰を掛けたテーブルに、山のような料理を持って戻ってきた。

「まぁ・・凄い量。 こんなに食べ切れるかしら」

「ふふん。 このくらい軽い軽い。 すぐにおかわりだよ! なんなら、この店閉店に追い込む?」

ガツ、ガツ

「・・・」

陽子はミキの豪快な食べっぷりに圧倒されて声がでない。

バアーーーン

次の瞬間、大音響とともに衝撃が走り、テーブルの料理が吹き飛んだ。

ムァーーー!

キャアーー

二人は突然の事に、それぞれ悲鳴を上げる。

ドン ドン

ミキは料理が喉につかえて目を白黒させ、胸を叩いている。

ガチャッ バアーーーン

目の前に現れた、あの大男が二発目のショットガンをぶっ放す。

どわーーーーっ!

再び大きな叫び声をあげたミキの目の前が真っ赤に染まった。

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