第204話 ■千織の転生(タイ編 その7)

■千織の転生(タイ編 その7)


青パパイヤのサラダ(ソムタム)

辛味と酸味の効いたエビのスープ(トムヤムクン)

エビ入り生春巻き(ポーピアソッド)

中華風カニの蒸し物ヌンシーユープー

豚肉のスパイシー炒め(パッペッムー)

エビのイサーン風カレー(ケーンパークン)

鶏肉のケチャップ炒め煮パッガイデェーン

シンラガー・ビール


ゲッフーーッ

「いやー 満足、満足。 陽子さん。 明日、日本に帰りましょうかぁー ヒックゥー」

ミキのお腹は、またしても妊娠8カ月くらいに膨らんでいる。

もちろん先に挙げたメニューは、ミキがお昼に1人で食べたものである。

「ミキさんのアイドル生命は今日でおしまいですね・・」

陽子は、日本を旅立ってから僅か1日で4~5キロ太ったミキの体を見ながら大きなため息を吐いた。

ミキは、タイの代表的なシンビールもいっぱい飲んで、少々目が据わっている。

「らってぇ・・ もうタイ料理、最ぃ・・高ッスぅ・・ れもって、もう飲めましぇーん」

「あ゛ーー ハイ ハイ。 もう今日はホテルに戻りましょうね」

「らめだよ。 陽子さん。 これから市内観光とショッピングらなかったの?」

ミキは、陽子の前を千鳥足でフラフラ歩きながら、時々スキップなんかをしている。

「ミキさん! ほらっ、危ないってばっ!!」


ドッシンッ

陽子が注意しているそばから、ミキは通りの横道から出て来た大男とブツかってしまった。

「痛ったぁーーー!  って、ご、ごめんなさぁいーー あっ? アワワッ・・」

ぶつかった相手の男は、身の丈2mはあろうか。 そいつが、ミキの襟首を捕まえて、ひょいっと体ごと持ち上げてしまった。

ミキは首根っこをつかまれた子猫のように男の手にぶら下げられている。


「ミキさんっ!」

陽子は、あまりに咄嗟の出来事なので、その場で固まっている。

「あぅ、あぁ・・」

ミキは手足をバタバタさせているのだが、体は空中に浮いて糸の絡まったマリオネット状態だ。

「こ、こらっ、 いい加減に下せってばっ!」

その声に反応したかは、分からないが、男はポイッとミキを前方に投げ捨てた。

ズザァァーー


ミキは無様に、通りの歩道の上を転がり滑った。

「てっ、てめぇ! 何しやがるっ!」

ミキは元、男子だから、こういう場面では、つい男の面が顔を覗かせる。

大男は、言葉に反応したのか、その筋骨隆々の体で、もう一度ゆっくりとミキと向かい合う格好になった。

ミキも半歩下がって体制を立て直す。


じりっ、じりっ、っと間合いを取りながら、お互い右方向にゆっくりと廻り始めた。

『くそ~、なんて太い腕なんだ!』

大男の上腕筋は、ミキの胴よりも太い。

ちょうど力瘤のところに大きな毒蜘蛛の刺青が彫ってある。

『こりゃぁ、瞬刹だな!』

むろん、ミキが瞬刹される側である。

『こう言う場面なら、あのベルダンディも1級神限定解除だろうなぁ・・』

そんな事が頭をちらりとかすめるが、ミキは、後ろにいた陽子の手を取って、一目散に逃げ始めたのだった。


ハァ、ハァ・・

100メートルほど走って、大男が追いかけて来ないのを確認する。

やれやれ助かったとほっとしていると、陽子がしきりに首を傾げているのが目に入った。

「どうしたの陽子さん?」

「ミキさん。 あの男・・・ ほら、覚えていませんか?」

「えぇ? しんないよ、あんなヤツのことなんか」

「渋谷のビルの地下って言っても?」

「??・・ あっ? あっーーーーーっ! あの時の?」 

「そうですよ。 あの麻薬シンジケートの」

「でもいったい何でこんなところに?」

「もしかしたら、千織と関係でもあるの?」

「さぁ・・・ どうでしょうね・・」

ミキは酔いもすっかり醒め、難しい顔つきになっていた。

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