第205話 ■千織の転生(タイ編 その8)

■千織の転生(タイ編 その8)


「 ひぃーー 痛ててっ! うぅ~~ しみるぅ~」

ミキ達は、大男から一目散で逃げた後、滞在しているホテルに戻って来ていた。

今は、ミキの擦り剥いた傷の消毒を、陽子が大雑把にやっているところである。


「ちょっ、痛いってば! 陽子さん、もう少し優しくやってよ!」

陽子は、そう騒ぐミキを無視して、グリグリと消毒液を塗っている。


「ひぎゃっ!! もぉ~」

「もう少しで終わりますから。 我慢、我慢♪」

陽子は、楽しそうにミキの手当てをしている。


「も、もしかして、陽子さんって S?」

ミキは、鼻歌を歌いながら、目をキラキラさせて、消毒を続ける陽子の耳元で囁き訊ねる。


「♪~ ♪~ ・・・ Yes」

陽子は、傷口を見詰めながら、にっこりと簡潔に答える。


「イ・・イエスなのかいっ! ど、どおりで・・」

ミキが言い切る前に・・


「ハイっ! 終わりました♪」

ペチッ

陽子は仕上げにとばかり、湿布と包帯を巻いた上から、かなりの勢いでミキの傷口を叩いた。


「・・・・・・ぐぅっ!」

ミキは、その衝撃的な痛さに声も出ない。


『サドだ! やっぱりサドだぁーーーー!!』

見に涙を滲ませながらミキは心の中で思ったのだった。


それでも陽子の傷の手当が的確だったのだろうか? 思っていた以上に短時間で痛みが引いていた。 

「ねぇ、陽子さん。 アイツ(大男)は、何でここ(タイ)なんかに居るんだろう?」


「そうですね。 考えられる理由は二つ。 一つは、もともとの本拠地がこっちだった。 二つ目は、千織さんを追って来たってところですね」

「千織を? ・・いったい何で?」

「それは、彼らの組織を壊滅させたのは、やはり千織さんだし、恨まれているとか。 それとも、もしかしたら人間じゃ無いことに気付いて、何かを企んでいるとか・・・」


「そっか、そう言えば未来ミクちゃんも狙われた事があったっけ。 もし、それが本当なら早く千織を探さなきゃ!」


「わたし、もう少ししたら霊視をしてみますわ」


「もう少しって、そんなっ。 千織が危ないかも知れないんだから、ちゃちゃっとやってよ!」


「それはダメです!」

陽子は間髪いれずに答える。


「ど、どうして?」


「だって・・・血を見てしまったんですもの・・・」


「血って? もしかしたら、あたしの傷?」


コクッ

陽子は怪しげな目をして小さく頷いた。


『ひぃ~ 陽子さんって正体がますます分かんねぇーー!』


「そんな・・ ミキさんってば。 それじゃまるで、わたしがバンパイアみたいじゃないですか」


「アハッ こころ・・ 読めるんだったっけ」


「うふふっ」

陽子は、ミキの膝の包帯を見つめながら、微笑んだ。


ミキは陽子の目線の先である自分の膝を見ながら、背中に汗がひとすじ、すぅーっと流れ落ちていくのを感じたのだった。

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