第199話 ■千織の転生(タイ編 その2)

■千織の転生(タイ編 その2)


ミキは普段、神様の力は使わないことにしている。

もちろんタイへも瞬間移動で瞬時に行く事ができるのだが、力を使うと何でもあっと言う間に出来てしまって、自分がしたいことを見つける旅の主旨にも反する。

そこで、全て自分の手で旅の準備をする事から始めた。

航空機のチケット手配、ホテルの手配、旅行用荷物のパッキングは、いつも美奈子マネージャーがやってくれている事だけれど、改めて自分でやると結構楽しいじゃないか。

フン フン フン

気が付けば自然と鼻歌もでている。


今日買ってきたばかりのガイドブックも、もう3回も目をとおした。

千織の居場所は自分の能力でも簡単に探せるけど、わざわざ秀一お義兄さん経由でGPS情報を1時間毎に携帯メールへ入手するようにした。

旅が単調にならないように、タイに入国してから追跡して突然の出会を演出しようと思っている。

”自分がやりたい事を見つける旅”

今日は、なんだかワクワクして眠れそうにない。

こんなに楽しいのは何年ぶりだろう?


とりあえずタイに着いたら、有名な観光地には行ってみたい。

例えば

・バンコクのワット・プラケオ

・アユタヤのバンパイン宮殿

・パタヤビーチでリゾート気分を満喫

・チェンマイでピマイ遺跡を見てから象トレッキング(千織が乗ってたやつ)

は絶対に行ってみたい。


『そうだ! これもあたしがやりたい事なんだ!』

ミキは、どんどん楽しくなってきている自分に興奮を覚える。

今回の旅に終わりは無い。

ティンカーベルは、もう随分前からエミとアヤでやってくれている。

VISAの有効期限が切れたら、また出直すつもりだ。

・・・

・・

さて、日にちはどんどん過ぎて、明日はもう出発の日である。

おっちょこちょいのミキにしては、随分と慎重に準備をしてきたつもりである。

チェックリストも沢山作って十分にチェックした。

何しろ作成チェックリストのチェックリストまで作ったのだから。

これで何か漏らしたら小学生以下のレベルだ。


明日の朝用に目覚ましも3つセットした。

もちろんパスポート用の腹巻もバッチリである。

お腹の薬や簡単な日本食のインスタント類も詰めた。

携帯の電池も新品に交換した。

バーツのレート(1バーツ約3円ちょっと)も覚えた。

簡単なタイ語もOKだ。

さぁ、あとは早く寝るだけだ!

ミキはフカフカの布団に勢いよく潜り込んだ。

・・・

・・

ミキは寝つきが良い。 布団に入った瞬間に寝れるのだ。

これはある種、芸能人の特殊能力かも知れない。

興奮していたので眠れないと思っていたのだけれど、どうやら新記録かも。

zzz

zz

z

ミキは夢を見ていた。

ミキが空港に着くと、なぜかそこには見慣れたあの人が居た。

そしてミキを見つけるとニコニコ笑い、手をひらひらと振りなら近くにやってきた。

「よ、陽子さん。 なんでココに居るの? 旅行?」

「うふふ。 ミキさん、一人でタイに行くなんてずるいわよ」

陽子は、怪しげな服装をしているので悪女のように見える。


「なっ! なんで? どうしてあたしがタイに行くの知ってるのぉ!」

「フフッ わたしが霊視できることを忘れちゃった?」

「だ、だけど、あたし今回は一人旅が目的で・・・」

「あらっ? だって向こうで千織ちゃんと会うんでしょ?」

「そ、それは・・ 旅の目的のひとつだから」

「あまり堅いこと言わないで。 もう飛行機のチケットも取っちゃたし」

「えっ、マジ? 超信じらんない・・」

「さっ、それっじゃ一緒に行きましょう」

陽子はそう言うとミキの手を強く握って歩き始めた。

「よ、陽子さん。 痛い、痛いよ!」

『う~ん。 陽子さぁ~ん。 いたいってば~』

ガバッ

そこでミキは夢から覚めた。

体に嫌な汗をかいている。

「これから、自分のやりたい事を見つける旅に出るっていうのに嫌な夢みちゃったよ。 まったく」

ベッドサイドに置いてある目覚まし時計のオレンジ色のデジタル表示を見ると、もう明け方の5時半だった。

「もうひと眠りって時間じゃないなぁ。 仕方が無い、起きよっか!」

ミキはベッドから、のろのろと起きだしバスルームに向かう。

キュッ

カランをシャワーに倒し、熱いお湯を浴びる。

女になってから3年になろうとしている体は、益々女らしくなってきているようだ。

鏡に映った姿を見ると自分でもドキッとする。

まぁ、女神さまの裸体なので、美しいのは当然なのだろうけど・・・


タイへ向かう便は、成田10時53分発のHALである。

まだ時間は十分あるけど、何があるかわからないので少し早めに出るつもりだ。

タオルで濡れた髪をコシコシ拭きながら、裸のまま寝室へ戻る。

クローゼットから今日着ていく洋服を皺にならないようにベッドの上にそっと並べて、一緒に取り出したバスローブを羽織る。


鋭二とは大沢グループの仕事に付いたばかりで、もう2ヶ月は会っていない。

今回のタイ行きの報告もメールでやり取りしただけだった。

鋭二のベットの前には、旅行用のスーツケースが置いてある。

今回持っていくのは、キャビンアテンダントが持っているタイプのもので、とても機能的だ。

荷造りは完璧なので、後は服を着てショルダーとこのスーツケースを持って出かけるだけである。

時間に余裕があるので、バスローブ姿のまま朝食の仕度をし始める。

マフィンをオーブントースターで軽く焼き、レタスとベーコン、目玉焼きを挟み、マヨネーズとマスタードをつける。

コーヒーメーカーは、ちょっと贅沢な機械を入れていて、エスプレッソが飲めるのだ。

手入れが面倒だけど、後片付けは清水さんがやってくれるだろう。

テレビでニュースを見ながら簡単に朝食を済ませる。

食器をシンクに持って行き、そのまま寝室へと戻る。

バスローブを脱ぎ、下着を着けて用意した服を着る。

タイは暑いので、それなりの服を選び、上着で調整することにした。

「さぁ、いよいよ出発だ!」

ミキの瞳は強く輝きを放っていた。

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