第198話 ■千織の転生(タイ編 その1)
■千織の転生(タイ編 その1)
ミキはひょんなことから復活の神になってしまった。
復活の神とは人の輪廻転生を司る神である。
初冬のある日、リビングで清水さんとダージリンティーを飲んでいるとき、ミキはふと千織のことを思い出していた。
千織は成仏できない女の子の霊で、鋭二の兄(秀一)が作ったロボットの体と合体し、早く亡くなったが故にこの世で果たせなかった、いろいろな事をするために、現在は、あちこちを旅している最中なのだ。
そして千織は、この世の未練が無くなれば晴れて成仏できるはずなのだが、幼くして亡くなったため、やり残したことは山のようにあるようで、なかなかその日を迎えられていない。
ミキも神様騒動で千織の事など、とても構っていられなかったため、すっかり忘れていたのだが、清水さんと紅茶を飲んでいて、前にもこんな場面があったと想った途端、急に千織の顔が頭に浮かんだのだった。
「ねぇ、清水さん。 そういえば千織って、いま何処にいるのか知ってる?」
ミキはズズッと紅茶を一口すすりながら目の前に座っている清水さんに聞いた。
「はぁ・・ そういえば、先週はタイからエアメールが届いていたかと・・」
清水さんは、天井の一点を見つめながら遠い記憶を呼び戻すように応えた。
「タイって、キックボクシングのあのタイ?」
「そうだと思います。 だって千織ちゃんが象の上に乗ってる写真のはがきでしたから」
「ほぇ? 象に乗ってる写真?」
「そうです。 ご覧になっていなかったんですか? ミキ様の机の上に置いておきましたけど」
「ごめん。 学校に行ってたときから机ってあんまり使ってないんだよね」
「そうですか。 あの机は、やっぱりただのオブジェだったんですね」
グサッ
『やっぱり』と言う見えない矢がミキの胸に突き刺さる。
「千織って、まだやりたいこと沢山残ってるのかな?」
ミキは、ぼそっと呟く。
「そういうミキ様は、どうなんですか? やりたいことは、もう全部やってしまわれたのですか?」
「あたし? あたしは・・・」
ミキは、そういうと口をつぐんでじっと考え込んでしまった。
『あたしがやりたいことって、いったいなんだろう? あたしって何がやりたいのかな?』
中学3年の期末テスト前までは、平和に過ごしていた。
あの薬を飲む前までは・・・
そして薬の所為で女の子になってから、毎日が事件の連続だった。
自分でやりたいをやる余裕なんかなかった。
いや、やりたいことを考える暇だって無かったんじゃないのか。
「そうだよ! あたしは、やりたいこといっぱいあったんだ!! 清水さん、ありがとう♪」
ミキは思わず立ち上がって、清水さんの両手を力いっぱい握りしめていた。
ミキは自分の部屋のオブジェといわれた机に向かって、愛用のシステム手帳を開いた。
この淡いピンクのシステム手帳は、サキにもらったものだ。
その机の上の隅には、象の背に乗った笑顔の千織の絵葉書があった。
顔だってロボットのはずなのに、人間以上の満面の笑顔だ。
ミキは羨ましいと思った。
これが自分がしたいことをやっているときの表情なんだ。
開いたシステム手帳に自分のやりたい事を書き出して、後から優先順位をつけて行こう。
「まずは、え~と・・・」
思いついたままに手帳に書き込んでいく。
サラ サラ サラ
いい調子で手が動く。
『ほ~ら、やりたい事がいっぱいだっ!』
サラ サラ サラ
「あれっ?」
しばらくしてミキは自分のシステム手帳に書き出された文字を見て愕然とした。
・目をつけておいた洋服を買いに行く
・TVで見たイタリアンをエミと食べに行く
・TDR、TDSで思いっきり遊ぶ
・ルナを約束していた温泉に連れて行く
・カイ君と正式に離婚する
・北の神様に復讐する(怖いけど)
「なっ、なんだ、これ? これが、あたしのやりたかった事なの?」
その時、千織のエアメールの満面の笑顔が再びミキの目に入ってきた。
「そうだ! タイに行こう!! タイに行って千織に会おう!」
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