第190話 ◆大王様とご対面

◆大王様とご対面


やけにおとなしいケルベロスの横を通り過ぎ、大きな門をくぐると目の前には大きな噴水があった。

が、吹き出ているのはどうやら水では無いようだ。

『うぇ、趣味悪い』

色が赤なので大方想像はできるが、ミキはあまり深く考えたくなかった。


相変わらずキャサリンに腕組みをされて、どんどん奥へと引っ張って行かれる。

以前事故で死んだ時、地獄に落ちないで良かったとマジで思う。

この重い空気の中では、1日いただけで精神的に参ってしまうだろう。


それにしても、向こうの世界ではエスカレーターや動く歩道に慣れているため、だだっ広い場所をひたすら歩くのには、いささか抵抗がある。 天国も地獄も近代化とは無縁だ。

「ねぇ、キャサリン。 まだだいぶ掛かるの?」

「いや、もう少しアルヨ」

「もう少しって?」

「あと20分くらヨ」

「うへぇ」

「あらあら。 ここ(地獄)では、忍耐力必要ネ」


それでも15分も歩くと前方に異様にデカイ親爺が見えてくる。

「キャサリン。 ひょっとしてあれが大王様?」

「正解アルネ。 もうあたしの役目終わったアル。 後は一人で行くアルヨロシ!」

「えっ・・ そんなぁ・・」


パシュッ

小さな音と共に、キャサリンは見たこともない小動物の姿に変身すると

あっと言う間に、どこかに走り去ってしまった。

ゴクッ

緊張のあまり思わず生唾を飲む。

あんなに遠くに居るのに、あのデカサである。

近くまで行ったら、きっと人と蟻くらいの差があるに違いない。

それにしても、凄まじく怖い顔をしている。

大神も怒ると怖いが、こっちは最初から超怖顔だ。


『本気で戦わせたら、いったいどっちが強いんだろう』

きっと、ゴジ○ 対 キングギ○ラみたいな大迫力に違いない。

ミキは思わず不謹慎なことを考えて、にやりと笑ってしまった。


バチバチッ

にやりと笑った時、ミキは地獄の大王と目があってしまった。

『ヤバッ』

そう思った時。

ヒューン

ミキの体が勝手に凄いスピードで、大王目掛けて飛ぶように進み始めた。

「およっ?」

だぁーーーーーーっ!

叫び声が終わる前に、ミキはもう大王の足元まで到着していた。


「西の神よ! わしがどうして呼んだかわかっているな!」

大王は鼓膜が破れそうな大声でミキに問いかけた。

「すみません。 よくわかりません。 あのっ、あたしの方は特に用事が無いので、早く帰りたいんですけど・・」

この一言がまずかった。


「神の分際で、ここに呼ばれた理由がわからぬと言うのか?」

大王の顔は、少し前より更に怖い顔になっている。

『どんだけ怖くなれば気が済むのだろう。 それに声デカ過ぎ!』

普通の人間だったら、この状況に置かれたら恐怖のために失神してしまうだろう。

でもミキは、西の神、大神、北の神、大カマキリなど、何故か天上界で恐ろしい体験を沢山してきたので意外に度胸がついていた。

もしも以前のミキだったら、この段階で既にちびっていたかも知れない。


「あたしは、いきなりキャサリンにココに連れてこられたんだよ。 普通は使者を使わす場合、用件とかを明確に伝えるのが礼儀じゃない?」

「キャサリン? あぁ、あのランクEの死神か・・」

「ええっ、キャサリンって死神だったの? でも死神だったら、北の神のところにも居るけど?」

「西の神よ。 本当に何も知らないらしいな。確かに北の神は死を司る。 よって死神も配下に大勢いるが、あそこは善人の死を扱っているのだ。 こっち(地獄)は同じ死神でも悪人の死を司っている」

「ああ、なるほど。 分かりやすい説明ありがとう」

ミキは、もう馴れ馴れしく大王とために話しをし始める。


「で、もう分かっただろうな?」

「いいえ、全然。 あたし頭悪いから。 すみません」

「つまりだな。 おまえさんのところで復活の業務が滞ると、ここ(地獄)が亡者で溢れかえってしまうのだ! ここでも罪の償いを終えて復活を待っている者が大勢いる。 それは、おまえさんも分かっているのだろう?」

「あっ、はい。 それは十分に」

ミキはこれでも西の神(復活の神)なのだ。

「それなら話しは簡単だ。 では3日間で50万人ほど復活させて欲しい。 その後は通常のペースで間に合うだろう」

「3日間で50万人ですか・・・そんなぁ・・・」

ミキは大王の顔を見ながら途方に暮れるのであった。


次回、「ミキ消化される?」

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