第183話 ◆北の神様(その7)

◆北の神様(その7)


ミキは変なキノコの胞子の所為で、記憶がまだ戻らない。

ただし、この前のドラゴン乱入事件の時の会話から、自分は「西の神」と呼ばれている事がわかった。

そして自分でも何かとても大切な事を忘れているような気がしてならない。

しかし今は、北の女神の虜とりこ状態である。

そして、もし下手に逆らえば、当然のようにその力で消滅させられてしまうだろう。

あの物凄いドラゴン(大神)でさえ、一瞬でおとなしくなってしまう影の実力者なのだ。

学校なら裏番のような存在である。

従ってミキは、今はどうすることもできない。


北の神殿は大神の指示で、多くの位の低い再建の神々によって、以前よりも大きく立派なものに再建されていた。

「ミキさん。 そろそろお風呂に入りましょうか」

北の女神は、お風呂好きである。

ただし、もう一つの目的もある。

お尻フェチ・・・

どうやら形とプニプニ感がたまらないらしい。

そして、お風呂はその両方がいっぺんに楽しめるのが最高らしい。

多い日は1日で5、6回は入浴する。 しかも1回あたり1時間以上である。

『もう、のぼせるわ、ふやけるわで大変だよ! この間は湯中りしちゃったし・・・』

ミキは心の中で呟くが、当然この心の声も北の女神には聞こえているのだった。

        ★

時間は少し遡る。


ビュン ベチャッ

大カマキリを退治し、ほっとした東の神様の体にヌルヌルした赤い舌が突然巻きついた。

そして次の瞬間、東の神はオオトカゲの胃袋の中に吸い込まれてしまった。

シュゥゥーー

強力な胃酸が東の神を襲う。

「うわっ、ちっちっ。 くそっ、トカゲの分際で! ならば、これでどうだ!」

パァーン

東の神様が、オオトカゲの胃袋の中でカ○ハメ波のようなものを放つとオオトカゲの体は粉みじんになって辺りに飛び散った。

「どうやら、この森の中にミキはいないようだ。 ならばあそこか・・・ もしあそこに居るとしたら最悪だな・・・仕方が無い、いったん出直すとするか。 あそこなら、どうせ大神も手が出せないだろうし・・」

東の神は、そう言うと自分の神殿に戻って行った。

        ★

さて、西の神殿では復活の神ミキに従う神々が混乱していた。

何しろ復活させなければならない者たちが、山のように居るのだ。

業務は滞っているし、復活の実は使わなければ、どんどん萎しぼんでしまう。

そこで西の神殿では、神々が会議を開き、死神達の活動をしばらく控えてもらえるよう、西のNo2の神様が自身の消滅覚悟で北の神のところに直訴しに行く事になったのだった。

        ★

ふぅ~

「ミキさん。 素適なプロポーションねぇ」

北の女神は、ミキの体を鑑賞するかのようにながめて溜息をつく。

「そ、そんな・・北の女神様の方がナイスバディじゃないですか」

ホホホッ

そう言われて北の女神もまんざらでは無いようである。


「ちょっと、こっちにいらっしゃいな」

北の女神は、もう、うずうずしている。

「あのっ・・」

ミキは、この間から気になっていた事を思い切って言ってみることにした。

「なあに?」

ミキのお尻に手をのばしかけていた北の女神は、その手をいったん元に戻す。


「あたし・・何か大切なことを忘れているような気がするんです。 それも物凄く大切なことを」

ミキは真剣な目で北の女神を見つめる。

「そお・・? そんな事は放っておけばいいのよ。 わたしは死を司る、そしてアナタは復活を司る。 わたしが仕事をしなければ、アナタも仕事をしなくて済むじゃないの・・」

「・・・」

ミキは言われていることが、霞がかかったようにハッキリしないが、おぼろげには理解できたような気がした。

「ねっ? そうでしょ!」

「は、はい・・」

「そうそう、いい娘ねぇ」

北の女神はそう言って微笑んだ。


「女神様! 失礼いたします」

突然女神に仕えている例のケンタウロス似の生き物が大浴場の扉を開けて声を掛けてきた。

「何の用だ? 今がわたしにとって何千年ぶりの至福の時間という事がわからないのか? おまえは、いったいわたしに仕えてどの位経ったのだ!」

「も、申し訳ございません。 只今、西の使者がやって来まし・・」

シュッ

最後まで言い切る前にケンタウロス似の生き物は、ミキの見ている前で消滅した。

「・・・」

ミキはそれを目の当たりに見て声も出ない。

「折角のところを・・・気が利かない者め!」

『やれやれ、親子そろって似た者同士ってヤツかぁ』

ミキは心の中が筒抜けになっている事も知らずに、感想をストレートに心に浮かべてしまう。


「仕方がないわ。 親子ですものね」

北の女神が自分が思った事に対するコメントを返してきたので、ミキは一瞬で青ざめる。

「あぅ・ぅ」

「心配しなくても、あなたはそんな簡単な事では消滅させないわ」

「は・・い・・す、すみません」

「でも、どうやらあなたの所の使者がやって来たようだし、話しだけでも聞いてあげようかしら」

北の神は、もう一頭のケンタウロス似の生き物からバスローブを受け取ると再建されたばかりの神殿の奥へと消えていった。


次回、「北の神様(その8)」へ続く

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