第182話 ◆北の神様(その6)

◆北の神様(その6)


ビリビリビリッ

ドォーーン

突然辺りを引き裂くような、大音響と大きな地響きと共に大神が北の神殿の庭に降り立った。


降り立つと同時に、大神の体は巨大なドラゴンの姿に変身する。

ミキは何事が起きたかと神殿のテラスから表を覗くが、ちょうど口から炎を吹き出している巨大ドラゴンと目が合ってしまう。

まさしく大神の逆鱗に触れたミキに向け、ドラゴンは大きな唸り声と同時に灼熱の炎を吐き出した。


ゴォーーーーッ

「うわっ、ちっちっ」

間一髪で太い柱の影に隠れ、炎の直撃は避けられたが、柱はその凄まじい熱のためにぐにゃりと飴のように溶けて曲がってしまった。

ミキは一目散で神殿の奥へと逃げ込む。

怒り狂ったドラゴンは、神殿を破壊しながらミキ目掛けて突進してくる。


「うわーーーっ」

ミキは記憶を無くしているが、こういう時の行動は誰でも一緒である。

ただ必死に逃げる、逃げる。

気が付けば北の神殿は、半分が大破している。


この間、僅か十分ほどである。

そしてミキは逃げ場を失い、遂に神殿の一番奥の間に追い詰められる。

ドラゴンの怒りに燃える真っ赤な目がミキの姿をとうとう捉える。


ごくっ

ミキは覚悟を決めた。

どの道、あの大理石をも溶かす炎なのだから、人の体など瞬時に蒸発してしまうだろう。

むしろその方が苦しまないで死ねる。 そう思った。

スローモーションのようにドラゴンが口を開けるのが見える。

そしてミキ目掛けてゆっくりと真っ赤な炎が近づいてくる。

炎の熱はドラゴンの口からまだ少し出ただけなのに、光線のような速さで伝わってくる。

猛烈な熱さだ!


『あぁっ、もう駄目っ!』

ミキは目を瞑った。

ジュウゥーーーッ

体が溶けて無くなる。

死ぬ・・ そう思ったが、なんと体は炎には包まれていない。

そおっと目を開けると目の前に北の女神が立っていた。


女神の前には、相変わらずドラゴンはいるのだが目の色が赤から灰色になっている。

「久しぶりね、お父様。 わたくしの神殿をこんなにして、いったいどうしてくれるの?」

そう、北の神は大神の実の娘であった。


女房と娘の地位は、天界でも父親より高いのか?・・・

巨大ドラゴンの姿は、みるみるうちに小さくなって行く。

「やっ わしとした事が、大事な娘の神殿を壊してしまったとは・・・」

ドラゴンの姿から大神の元の姿に戻るとオロオロしながら娘に言った。


「北の神殿は、造形の神々に再建させよう」

「当然よ! 今度はもっと大きくて頑丈なのにしてちょうだいね」

「う、うむ。 わかった、そうしよう。 ところで、そこに居る西の神を引き渡してもらいたい!」

大神はミキをゆび指し、睨みつけながら北の女神に強く要求する。


「何をばかな事を言ってるの! この娘は、わたしの大事なお客様よ。 それに、お父様に意見を言ったり、頭を叩いたり度胸もあるわ。 これからの天上界には絶対に必要な存在よ!」

「し、しかし・・」

「この娘に何かしたら、お父様とは縁を切るわよ」

「ぐっ・・・ わ、わかった。 ならば好きにするがよい」

大神は再びドラゴンの姿に変身すると空高く飛び去っていった。


いままで、北の女神の背中に隠れていたミキが恐る恐る顔を出す。

「もう大丈夫よ。 お父様は、わたしには絶対に逆らえないの」

そうなのだ。 北の神は死を司るが、それは神のものさえ対象なのだ。

不死身の神を消滅させられる力を北の神は持っている。

もちろん大神であってもだ。


ゆえに大神が天上界の最高位の神とは言え実質、北の神がNo1なのだ。

「そんなに凄い女神様だったんですね・・」

ミキは、あらためて美しい女神の姿をながめた。

「それにしても、あなたが「復活の神」だったとはね・・」

北の女神さまは、ミキを抱き寄せ、しっかりと抱擁した。


モゾモゾ・・

あっ

ミキがびっくりして声をあげる。

そう、北の女神の手がミキのお尻を撫でている。

実は北の女神さまは、お尻フェチだったのだ。

「ちょっ、離してください」

「いやよ。 だって何千年ぶりの感触だもの。 さっきは、本当にとんだ邪魔が入ってしまったわ。 たとえお父様でも、もう少し暴れたらただではおかなかったわよ!」

「そ、それって・・・もしかして」

「うふふ、 わたしの力は、自分で制御できないところがあるから、もし、そうなっても仕方がないの・・」

北の女神の目は、怪しく笑っている。

ミキは、いままでの会話の流れと本能に従って逆らうのをやめたのだった。


次回、「北の神様(その7)」へ続く

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