第171話 ◆神様と呼ばないで!

◆神様と呼ばないで!


ミキは引継ぎをする場も無く、「復活の神」に就任した。

が、その途端、人々からの神様に救いを求める声やお願いする声が途切れること無く聞こえるようになった。


人間は、雑音の中から聞きたい音だけを聞き分ける能力がある。

でも、神様になってからは、情報を捨てる事が出来ない。

全ての声が明瞭に、一言も漏らさずに頭の中に入ってくる。


もともと数が少ないかと疑われるミキの脳細胞は、たちまち悲鳴を上げる。

3日もしないうちに、ミキの目の下には大きな隈くまができる。

頬もげっそりとこけてしまった。


「こりゃ~たまらん! あたし、神様なんてもうやってらんないよ~!」

ミキは、西の神殿の中心で仕事放棄を叫んだ!

神殿の壁にミキの大声が木霊こだまする。

そして神様になったミキの声は、天上界をあっと言う間に駆け巡る。


「あのバカ女めっ!」

カイ君は、すぐさま西の神殿に移動する。

「おわっ!」

いきなり目の前に現れたカイ君。 元い、イケメン神様にミキは驚くが。


「オマエは、ランクAの神の自覚が足らないぞ! いまのオマエの声(気持ち)は、天上界にいる全ての神々に伝わってしまった」

「ほぇ? ほんとうですか?」

「神様は嘘をつけないと言っただろう!」

「あっ、そうでした。 すみません」

「すみませんでは、済まない。 我々家族にも恥をかかせたのだぞ!」

「まぁ、ルナちゃんに・・・」

「ばかもの! わたしもだ!」


「な、なによ! 全ての悪夢の始まりは、カイ君の所為じゃなかったっけ! あたしに黙ってピーをしなければ、こんな事になんかならなかったのに!」

ミキの額には#(怒り)マークが浮き出ている。


バチ バチ バチッ

ランクA同士の神様の睨みあいで、本当に空間に火花が散る。

巨大な力の激突で、西の神殿もグラグラと揺れ始める。

ビキビキッ

柱や壁に罅が入り始めたところで、ミキが我に返る。


「ちょっ、ちょっとタンマ! 神殿が壊れちゃう」

やはり女性は現実的な面がある。

「それなら、まじめに職務をこなすと言うのだな?」

「もともと、あたしには、キャパオーバーなんだよねぇ・・」

ミキは拗ねたように言う

「誰でも最初はそうだ。 気にする事はないさ」

「で、でも・・・」

「さっきのやる気の無いオマエの声は大神まで聞こえてしまったのだぞ」

「大神って?」

「ランクAの神は4人居るが、更にその上の神の事だ。 もし大神の逆鱗に触れたら・・・」

「ど、どうなっちゃうの?」

「お、恐ろしすぎて、言葉に出せん!」

いつもは強気のイケメン神様も本当に恐がっているようだ。


ミキはランクAのイケメン神様も恐がる罰ばつを、もし自分が受けるような事になったらと想像し、思わずちびりそうになる。

「わ、わかりました。 気持ちを入替えて、まじめにやらさせていただきます!」

ミキが大きな声で、そう宣言するとその声は再び天上界を駆け巡り、他の神々に伝わった。

「何度も言うが、ここでの発言は重みがあるのだから、しっかり励めよ!」

「は、はい」

ミキはまだ見たことの無い、大神に恐怖を感じながらも、「復活の神」の任をまじめに遂行することを心に誓ったのだった。


次回、「神様がしてはいけない事(その1)」へ続く

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