第166話 ◆禁断の果実(その3)

◆禁断の果実(その3)


「それじゃあ、お母様は・・・」

「復活の神が許さない限りは、どうしようも無い。 もしかしたら、永遠に囚われたままになるかも知れない・・」

「そ、そんな・・・お父様のお力で何とかならないのでしょうか」

「先ほども話したとおり、他の神に干渉することはできない。 もし、仮にそのような勝手なことをすれば、天上界で大きな争いが生じ、如いては向こうの世界の破滅にもつながることに成り兼ねない」

「あぁ、それではどうすればよいのでしょう」

「全ては、あの女のこれからの動きにかかっている」

「お母様の・・・」

天上界は大きく東西南北の四つ世界に分かれている。

それぞれを統治する神とその下に更に関連する神々が仕えている。

従って自分の属する世界を離れた処で起きた事についてはわからない。

神様もルナもミキが「忘却の実」を食べて記憶を無くしている事実までは知らなかった。

        ★

そのころミキは、ひたすら「忘却の実」を絞る作業を続けていた。

夜が明けると作業場の前には、収穫された「忘却の実」が山のように積まれている。

それを石桶に移し、大きな木槌で打ち潰していく。

あらかた潰し終えると、ワイン作りのように素足でそれをさらに踏んで果汁を絞りだすのだ。

長い長い昼の時間、永遠とその作業を続ける。

ミキが休めるのは、短い夜の間だけだった。

ミキは「忘却の実」をかじってしまったため、自分の記憶を失っている。

そのため自分がどうしてココで、こんな事をしているかもわかっていない。

・・・

・・

ミキがここに来てから5回目の夜が過ぎ、そしてまた朝日が昇ってきた。

向こうの世界では、既に1年が過ぎていた。


鋭二は心労が重なり、一時は入院までしていた。

その間、ルナはなすすべも無く、ただ天上界と人間界を行き来するだけだった。

「あ゛ーーー! もういい加減あったまに来た!! もう何時までも、こんな事やってられるか!」

ミキは我慢の限界に達していた。

記憶は無くしていてもパーソナリティは失うことは無い。


「こうなったら、ストライキだ! こんな実の汁なんか絞ったって仕方ない!」

ミキが大声でそう言い終わるとほぼ同時に、後ろからもっと大きな声が響き渡った。

「言いつけに叛いた者には、天罰を与えねばならない!」

そう、そこには「復活の神」が超怖い顔をして立っていた。


「あたしは、あんたなんかに従う義務はないわよ!! だいたいアンタはどこの誰なの? どうでもいいから早くこの鎖を外しなさいよ!」

最近はちびり癖のついてしまっていたミキだが、今回は記憶を失っている所為か強気である。


「わたしは、西の天上界で輪廻転生を司る「復活の神」だ。 おまえは、その「忘却の実」を勝手に食べて記憶を失ったのだ。 そして、その罪を償うため、「忘却の実」の果汁を絞り続けなければならないのだ」

「こんなに沢山あるんだから、一つや二つ食べたっていいじゃない! 神様だかなんだか知らないけれど男としての器が小さいわよ!」

「愚か者めっ! この「忘却の実」は、人ひとりが輪廻転生するために一つ必要なのだ。 おまえが食べた実は、本来なら5歳の女の子が食べるはずのものだったのだぞ!」

「えっ・・・そ、そうだったの?」

ミキは、その話しを聞いて動揺する。


「だから、おまえはその女の子が食べるための次の実が生るまで、罪を償い続けるのだ!」

「わたしのために・・・ わかりました。 罪は、きちんと償います」

そう言うとミキは早速、中断していた作業を再開した。


「あの~ ところで後どのくらいで次の実が生るんでしょうかね?」

ミキは木槌を振り下ろしながら、「復活の神」に恐る恐る訊ねる。

「ここには、3000億本以上の復活の木がある。 そして、それぞれの木に500個ほどの実が生る。 実が収穫されると次の実は2回目の朝日を浴びて実る。 それの繰返しだ。 ただし、「忘却の実」は人の輪廻転生だけのものではない。 おまえが絞っている果汁は、実を食べることが出来ない生き物に使うものだ」

「ほぇ? そ、そういう事ですか・・・」

ミキは自分の作業の目的を始めて知った。

「そういう事だ」

「あの? それで、ぶっちゃけ後何日くらいなんでしょう?」

ミキは恐れ多くもストレートに確認する。

「それは、わからない。 おまえの懸命さによって短くもなれば、永遠に実らないかも知れない」

「永遠に・・・ですか・・」

ミキは目の前に山のように積み上げられている「忘却の実」を見ながら途方に暮れるのであった。


次回、「禁断の果実(その4)」へ続く。

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