第144話 ◆母は強し
◆母は強し
しばし orz 状態だったミキだが、だんだん活力が甦って来るのが自分でも、はっきりわかった。
そう、ミキはムカついていた。
「自分が生んだ娘をいきなり連れ去られた上、自由に会えないなんて、絶対にゆるせない!」
そう言ってみたが、どうすれば連絡が取れるのだろう?
あれやこれやと考えてみると、意外や直ぐにグッドアイデアが閃く。
ミキにしては珍しいかも知れない。
「そうだ! あたしは死にそうになった時、神様に会ったんだから・・・」
まさかミキは、もう一回死んでみるつもりなのだろうか?
「千織とか陽子さんに聞いてみれば何かヒントが得られるかも知れない」
ミキは出産直後とは思えない元気さで、携帯電話を取りに寝室へ駆けていった。
ピッ
「もしもし、陽子さん? あたし、ミキです。 ご無沙汰してます。 千織もそこに居ます? えっ? ああ、そうですか。 ところで、ちょっと相談したい事があるんですけどいいですか?」
・・・
さすがに陽子は神様には会ったことが無かったので、千織が買い物から帰ってきたら、もう一度連絡をくれることになっていた。
ただし、神様とチョメチョメして娘を産んだことは伏せておいたが。
それにしても、神様と自分の間に子供が出来て、それが女神様だなんて信じられない。
自分はもしかしたら、本当は気が狂れてしまっただけなのかも知れない。
そんな事も考えてみたが、思い出して整理してみると辻褄は合うし、取材中に撮った写真も残っている。
しかも箱根で撮った写真には、偶然だろうが、あのイケメン神様も映っていた。
生んでから30秒しか一緒に居なかった娘ではあるが、もう会えないと思うとなんだか無性に会いたくなる。
もう、居ても立ってもいられない状態である。
ミキは動物園の狭い檻の中の猛獣のように、部屋のなかをただ当ても無くうろうろとする。
ミキは、イケメン神様の映っている写真を手に持っていることに気が付き、写真の神様に向かって、悪態をつき始める。
「こらっ、あたしは代理出産母じゃないんだぞ! 娘に合わせろ! この人でなし!」
『神様は人ではないからね。 残念でした』
突然声が写真の中から聞こえて来る。
「な、な、なんだぁ?」
ミキは、写真を手にしたまま、その場にしゃがみ込む。
「写真がしゃべった?」
『ブブッーーー。 正確には写真の中の僕がしゃべったでしたー!』
「ちょうどよかった。 ちょっと、アンタこっちに出てきなさいよ!」
『神族も人間も奥さんになるとどっちも怖いなぁ』
「だ、だれが、アンタの奥さんなのよ!」
『だって、ピーをして娘まで出来ちゃたんだし、こっちの世界で夫婦の儀式は、きちんと済んでるし』
「ああ、もぉ。 うるさいわね! それより、あたしの娘に合わせなさいよ!!」
『だれも、娘をきみに合わせないと言ってはいないだろ』
「だって、そっちの世界に連れてったら、あたしには会うことが出来ないじゃない!」
『僕はきみに何ていったか覚えていないのかい』
「いったいなんの事を言っているの?」
『娘を天上界に連れて行くのは、掟だからさ。 人間界に娘を置いておくと娘は女神にはなれず、きみの血が濃くなって人間になってしまう。 そうしたら、僕の代で僕の家系が絶えてしまうじゃないか』
「それだって、あたしが娘に会えない事に変りはないじゃないの!」
『それはちょっと違うよ。 きみは僕と契りを結んだ』
「ちょっ、その話しは、やめてくれる」
『いいや。 契りを結んだってことは、きみの体の中に僕のピーが注がれたって事だ』
「いやーーーーっ」
『だからきみにも少しだけ神族の能力が備わっている』
「えっ?」
『言っておくけど少しといっても人間にとっては、かなり凄い能力だぞ!』
「ほぇ?」
『その能力の一つは、天上界との行き来が出来るってことだ』
「それって・・・」
『そうさ。 娘に会いたくなったら、そう願えばいい』
「そうなの・・・」
『試しにやってみるといい』
「そ、それじゃ・・・」
ミキは娘に会いたいと強く願ってみたが何の変化も起きない。
「な、なによ! だめじゃないの! 騙したわね!」
『おいおい。 きみが僕の妻でなければ罰ばちを当てているところだぞ。 私は今すぐ天上界に瞬間移動して娘と会いたいと5W1Hで願ってみなさい』
「ええっ、そこなのぉーー」
『物事は何事も正確に伝えなければならないのさ』
「や、やって見る!」
ミキは目を閉じて、今度は5W1Hで強く願ってみる。
すると、懐かしい甘い香りの風が吹いているのを感じた。
そっと目を開けると、見たことのある神殿の入口の前に立っていた。
娘に会える。 そう思うとミキは胸がドキドキしてきた。
意を決して、ひんやりした神殿の中にゆっくりと入っていく。
少し歩くと急にペタペタペタと言う音が聞こえ、横を見ると白い犬が並んで歩いていた。
ミキは犬の頭をそっと撫でてあげた。
前に訪れたときは、どこまでも真っ直ぐに歩いて祭壇の間に着いたが、今度は途中で白い犬が先頭になって、廊下の中ほどのところを右に曲がり案内してくれる。
やはり、神殿の中は大回廊の他にも細い通路が沢山あるようで、2回や3回来たとしても、目的地にまっすぐ着くことは不可能だと思う。
「ねぇ、まだ随分歩くのかな?」
『キミのイメージが足りなかったから、少し手前に移動してしまったんだ。 上手くやれば次からは、目の前に娘が居るはずだ』
「そっか。 ふ~ん。 ドラ○エのルーラみたいなんだね」
『それって、なんだい?』
「あーー 神様も知らない事ってあるんだー」
ミキは、しょうも無い事を勝ち誇ったように神様に言う。
『そりゃ、神族にもいろいろあるからね。 僕が死神や貧乏神でなくって良かっただろ?』
「死神って、ほんとに居たんだ?」
『日本には八百万やおよろずの神々と言う言葉があるだろ。 神様って人の想いと同じ数だけいるのさ』
「ふ~ん。 そうだ。 ところで、あの娘に名前は付けたの?」
『名前か。 名前なら生まれる前から決まっている』
「で、なんて名前なの?」
『知りたいか?』
「あったりまえじゃないの。 あんた、ばかぁ~?」
『そんな事を言うなら教えない』
「あっ、 うそ、うそ」
『ここ(天国)でウソを吐つくと、どうなるかわかって言っているのか?』
「す、すみません。 以後気をつけます」
ミキは事の重大さにシュウンと小さくなる。
「あ、あれ? あたし本当に縮んだ?」
『それも能力の一つだ。 今度は上手くイメージ出来たんじゃないのか?』
「これって、使い方に気をつけないといけないよね」
相変わらずのタメ口である。
『そのうち特に意識しなくても大丈夫になるけど、最初は気をつけてた方がいいだろう』
「うん、わかった。 それで娘の名前は、なんて言うの?」
『セレーネー(ルナ)と言う。 』
「わー 素敵な名前ね~」
『さぁ、着いた。 ここがあの娘の部屋だ』
「な、なんか超緊張するなぁ・・・」
『それじゃ、ゆっくりしていくといい。 あっち(人間界)に戻る時は、出て来た時をイメージすれば、時をも遡って移動できるから』
「すごっ。 そんな事まで」
『もし能力を使って悪い事をすると、その途端キミは、この世から消滅するから気をつけたまえよ!』
「あの~ す、すみません。 能力の限定って出来ないんですか? あたし無意識に使っちゃいそうで怖いんですけど!」
『気の毒だが、それは出来ない。 今のうちに、もし消滅したら僕に助けて欲しいとお願いしておくんだね』
「それは、ありなんだ。 だったら、もし私が消滅したら、なんとか復活させてください。 お願いします」
ミキは、素直に心の中から神様にお願いした。
「これでいいの?」
『そなたの願いは聞き入れた。 願いはきっと叶うであろう』
プッ
「なにそれ?」
『これは、仕来りなんだよ#。 それじゃね』
そう言うと神様は、フッとミキの前から姿を消した。
いよいよ娘とご対面である。
ゴクッ
あっちの世界では妊娠だってしていないのに、いきなり大きな娘に会うなんてなんだか、実感が伴わない。
コン コンッ
ドアをノックする。
「お母様ですね。 どうぞ、お入りください」
透き通った声が部屋の中から聞こえてくる。
その声を聞いただけで、心が洗われるような気がする。
ミキは、思い切ってドアを開け部屋の中へ入った。
目の前が光り輝いている。 その中心に娘が立っていた。
初めて見たときは少女の姿であったが、目の前に立っている娘は、なんだかミキより大人にみえてしまう。
もう一人前の女神様なのだろう。
ミキがどうしていいか、わからなくて、その場に立ち竦んでいると娘が傍に歩いて来て、ミキのことをそっと腕の中に抱きしめてくれた。
その瞬間、ミキはとても優しい気持ちに満ち溢れる。
「あなたに会いたかったわ。 セレーネー」
娘の腕の中で、ミキは幸せな気持ちに浸っていた。
これじゃ母と娘が逆な気がするが、相手は女神様だから仕方がない。
「わたしもです、お母様」
娘の頬から涙が一滴ひとしずく流れ落ちた。
次回、「ミキの秘密」へ続く
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