第143話 ◆女神の誕生

◆女神の誕生


ミキたちが「鎌倉、箱根の旅」の取材収録を終え、それぞれの家に戻ってから3日目の朝がやってきた。

ミキは性格的に一度起きたことを、くよくよと後に引きずらないタイプである。

自分が妊娠していないと思った途端、もうスケベ神様の事など、すっかり忘れてしまっていた。

実際、お腹も大きくならないし、悪阻つわりにもならない。

それに、あれから神様もミキの前に姿を現していない。


「きっと、嫌がらせにウソを言ったんだな! 神様のくせに、しょうがないなあ」

ミキが洗濯物を干しながら、ブツブツと言っていると、急にめまいがしてその場にしゃがみ込んでしまった。

「ありゃ、朝ごはん食べてなかったからかな? それとも洗濯物を干すのに上の方ばかり見ていたからかな?」

ミキは一旦、休憩することにして、リビングのソファに仰向きで横になる。

テーブルに手を伸ばし、ニュースでも見ようとTVのリモコンを取ってスイッチを入れるが、50インチの液晶大画面に映ったのは、イケメン神様のドアップの顔だった。

げっ

「あ、あんたねぇーー いきなりそんなとこに出てこないでよ!」

「驚かせてすまない。 今日は子供が生まれる日だからつい嬉しくて。 もうじき生まれるから、申し訳ないけどココで待たせてもらうよ」

「生まれるって?」

「だから、この前言っただろ。 僕達の子供さ」

「あんた、まだそんな事を言ってるの? だってほらっ、お腹だってこんなにパンパンじゃない・・・ って? ええーーーっ なにこれぇーーー!!」


ミキは自分のお腹を見て愕然とした。

見ればミキのお腹は、臨月の妊婦さんと同じくらいになっているではないか。

「さ、さっきまで何ともなってなかったのに・・・なんで・・」

「神族の出産は、みんなそうだよ。 ギリシャ神話なんかも、そうだろ?」

「な、なによ! いつも、いつも、ギリシャ神話って! あんたは、ギリシャの神様なの?」

「5・・4・・」

「なにそれっ? うっ、イタタ・・・」

ミキは急に陣痛が来る。

「3・・2・・」

「あ゛ーーー」

「・・1・・ゼロッ・・」

突然ミキのお腹から光りが溢れだし、一瞬爆発的に光を放った後、目の前に美しい少女が現れた。

「お母様、わたしを生んでくださって、ありがとうございました」

「あ、あなたは・・・」

その少女は、この世のものとは思えない神秘的な微笑を浮かべてミキを見つめている。

「娘よ。さぁ、急がなければならない。 こっちに来るのだ」

神様が大画面液晶TVの中から、娘の女神を呼ぶ。

「はい、お父様」

娘もそれに素直に従う。


「あっ、ちょっ、ちょっと待ってよ・・」

ミキがTVの前に移動する間も無く、二人が映った画面はプッと小さな音をさせ消えてしまった。

「あ゛ーー」

ミキは、なんだか夫と娘から同時に捨てられてしまったような気がして落ち込んだ。

「なんなんだよ・・・ みんな・・・ ひどいよ・・・ 鋭二さんに何て言ったらいいんだよ! ってか絶対信じてもらえないし! 法律上は重婚罪じゃないかよ!」

ミキはガックリとその場の床に手を着いたのだった。 orz


次回、「母は強し」へ続く

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