第77話 ◆未来(ミク)からのエアメール

◆未来(ミク)からのエアメール


大きな交差点を右折して1台のレガシーが滑るようにマンションの地下駐車場に入ってきた。

ボボボボッ

クルマは、水平対向エンジン独特のエンジン音を響かせている。

ボクサーサウンド。

ミキは元男の子の所為か、このエンジン音がたまらなく好きなのである。

地下駐車場のエレベーターの直ぐ隣りが、大沢家の駐車スペース。

車庫入れもスムーズに出来た。

こんな日はきっといい事があるに違いない。


ラーララ ランラララ♪

自分のヒット曲を口ずさみながらエントランスのメールボックスを開けたミキは、そこに一通のエアメールを見つけた。

「あっ、未来ミクちゃんからだ」

そう、それはアメリカにいる未来からの手紙だった。


「未来ちゃんは、最新型のロボットだって言うのにインターネットのメールを使わないところが、わたしたちよりよっぽど人間ポイんだよね~」

見えないのは分かっているのに、手紙を陽に透かして見ようとするのは何故だろう。

そんな事を思いながら、再びエレベーターに乗って最上階に上がる。

上層階用専用のエレベーターは、かなりの高速だ。

ポ~ン

あっと言う間に、エレベーターのドアが開く。


開いたドアの向こう、そう、このフロアー全てが大沢家。

つまりミキの家なのだ。

玄関は、いろいろと物騒な事件があったため、静脈認証と網膜認証の二つのセキュリティをパスする必要がある。

これが面倒かと言うとそうでもない。 なぜなら、両手に荷物をもっていても、掌を台に置いて、スコープを覗くだけでドアが勝手に開くからだ。 もちろん自分でドアノブを回す必要が無い。


ビューー

当たり前のようにドアが自動的に開く。

このセキュリティ連動の自動ドアは、先月設置したばかりなのだがミキは、なかなか気に入っている。

そのままキッチンへ直行すると、買ってきたものをテーブルの上に置き、冷蔵庫に入れるものとそうで無いものを仕分する。


「今日は鋭二さんも早く帰ってくるし、久しぶりにフレンチのコースでも作っちゃおうかなぁ~♪ 材料も揃っているし」

以外だけどミキの料理の腕前は、三ツ星レストランのシェフ並みなのだ。


「そうだ、未来ちゃんの手紙は何の要件かしら? もしかしたらNYに遊びに来てネ。 な~んて」

食材を一旦冷蔵庫にしまいながら、片手で手紙の封を切る。

カサカサ

ミキは手紙を開きサッと目を通すものの、何か違和感を感じる。

「んっ? 何か変だな、この手紙?」

もう一度文面を端から、ゆっくりと読みかえす。


・・・・・・・・・・・・・・・

ミキさん。 お元気ですか。

わたしと秀一は、ニューヨークで仲良く暮しています。

そちらも、もう直ぐ春ですね。

日本の春といえば、やはりサクラでしょうか。

淡いピンクの花びらが風にヒラヒラ舞っているのが目に浮かびます。

でもNYにも日本に負けないくらいの「桜の散歩道」があるんですよ。

マンハッタンから地下鉄で10分ほどのブルックリン植物園で「サクラマツリ・イン・ニューヨーク」 が毎年4月の下旬から5月の上旬にかけて行なわれています。

折れた肋骨が完治したら、鋭二さんと一緒にNYに、ぜひ遊びに来てください。

こちらの観光地を秀一と案内するのを楽しみに待っています。

ミキさんのスケジュールの都合が付いたら連絡くださいね。

返信用の封筒と期限フリーの航空チケットも同封しておきました。

それでは。

・・・・・・・・・・・・・・・


ミキは、右手で自分の肋骨をそっと撫でる。

折ったのは、もう半年以上も前の話しだ。

いくら何でも、1ヶ月もあれば骨折だって結構治るもんだ。

未来のデーターベースなら、医学に関する情報量も半端じゃないはずなのに?

なんでこんな事を書いたんだろう?

秀一さんのAI理論に問題でも残っていたのかなぁ・・・

「まっ、久しぶりに後で電話でもしてみるか。 声も聞いてみたいし」


この時は、まだ新たなる事件に、またまた巻き込まれるとは思ってもいないミキなのであった。


次回、「未来ミク発見?」へ続く

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