第74話 ◆007は2度死ぬ?

◆007は2度死ぬ?


「ミキさま、どうかしましたか?」

元気がないミキを気遣って未来ミクが心配そうに聞く。

「うん。 お腹すいちゃって、動けないんだよ~」

予想通りの答えであるが、ロボットのプログラミングには負の要素は組み込まれていない。

「まぁ・・  そういえば・・さっきレストランがありましたから、そこまで戻りましょうか?」


「うん♪ 腹が減っては戦ができないってね! いざ行こうレストラン~!」

こうしてミキの行動パターンも未来ミクの個人別データベースに記録されて行く。

(個人情報は秘密だけど、ロボットも推測エンジンが必要に応じてこの情報を呼び出すことがある。 もっとも現在の未来ミクに搭載された推測エンジンのアルゴリズムでは、ミキの行動はおそらく推測不可能だろう)

・・・

・・


さてさて、レストランでお腹がいっぱいになったミキは、あくびを連発している。

「ふぁ~ やっぱり時差がねぇ・・・」

のろのろ歩くミキの手をを未来ミクが引っ張って行く。

「ミキさま。 ほら、あそこがタクシー乗り場ですよ 早く、早く・・」

未来ミクは、よほど秀一に早く逢いたいのだろう。


「えっと、研究所の場所はわかってるんだけど・・」

ミキは歯切れが悪い。

「なにか問題でもあるのでしょうか?」

未来ミクは少し不安そうな顔をして、ミキを見る。

「うん。 わたし英語が苦手なんで、行き先とか伝えるのがね~」

「それなら大丈夫です。 わたしは、世界各国の言葉が話せますから」

今度は、未来ミクの顔がパァっと明るくなる。


「そ、そうなんだ。 なんか嬉しいような悲しいような複雑な気持ちだよ~」

ガラガラと荷物を引きながら、タクシー乗り場に着くとちょっと変わったタクシーが止まっていた。 アメリカのタクシーなのに黒塗りなのだ。

おまけに黒服にサングラスをかけた運転手が、こっちこっちと満面の笑みで手招きしている。


「お嬢さん、こちらへどうぞ。 安くしておきますよ」

「わぉ、運転手さん日本語話せるじゃん!」

「なんならニューヨークのガイドもしますよ。 お嬢さんたち」

運転手は、一見ギャングっぽいが、笑顔で話しかけてくる。

「よし決めた! それじゃ、この荷物をトランクに入れてくれる」

「はいはい。 こちらですね」

「ええ、そうです」


「はい。 では、こちらのお嬢さんは、先に乗ってください」

もう一人の男が未来ミクの手を引いて、先に後ろの席に乗り込ませる。

「あれ? 運転手さん。 このタクシーって、助手の人までいるの?」

「そう、誘拐するのには、最低二人いないとね」

「誘拐? ちょっ・・」

慌ててミキがクルマのドアに手をかけようとしたところに。

ガスッ

「わっ」

ザザッー

ガッ

「うっ・・」

ミキは男におもいっきり右の脇腹を蹴飛ばされ、歩道の角に頭を打ちつけて意識が遠のく。


キキキィーーー

ブロロロォーー

未来ミクを乗せたタクシーが、凄い勢いで発進し、遠ざかって行くのを薄れゆく意識のなかで感じながら、ミキはまたしても後悔するのであった。

「あぁ・・・また、やっちゃった・・・お義兄さん、ゴメンネ」

・・・

・・


「うっ・・ううん」

白い天井がぼんやりと見えている。

『ここは・・・』

自分がどこにいるのかわからない時、人は前後の記憶を上手く思い出すことがなかなか出来ない。

ミキも、まさしくそう言う状態だった。

「清水さ~ん。 どこー? ちょっとー。 いないのー?」

・・・

・・

『わたし、いったいどうしたんだろう・・ここは?』

ベッドの上に起き上がろうと体をひねった途端。

ズキンッ

「痛ーーーー!!」

わき腹に激痛が走る。

くぅーー

痛さのあまり冷や汗もどっと噴出す。


『そっか、【ミク】ちゃんが、さらわれたんだっけ!』

「こんなとこで寝てる場合じゃないや!」

ベッドの脇にたたんであった着替え見つけ、病院用のパジャマを脱ぎ始めた時、病室のドアが軽くノックされた。

コンコン


「は~い。 いま着替えてますんで、もう少しまって・・」

カチャ

「あ゛ーーー もう、待ってていってるのに!」

ドアから入ってきたのは、なんと秀一だった。

「お・・お義兄さん」

「ミキさん。 びっくりしましたよ。 大丈夫ですか?」

「ええ・・痛っ・・タタタ・・ あ゛ー ちょとまだ痛いですけど大丈夫です」


「ほんとうに?」

秀一は目を大きく見開いて驚いている。

「うん・・なんとか~」

ミキは右胸をさすりながら、顔を少し歪める。

「だけど、肋骨が一本折れて、2本にひびが入ってるって」

「えーーーーっ それって本当?」

今度はミキが驚く番である。


「さっきお医者さんからレントゲンを見せてもらいましたから本当だと思いますよ」

「ゲゲッ・・どうりで超痛いハズだよーー」

「直るまで、3週間くらいはかかると思いますよ」

「そんな・・ お義兄さん、わたしの所為で【ミク】ちゃんが誘拐されちゃって」

「ああ、その件ですか」

「ご、ごめんなさい。 わたしがいけないんです。 わたしがアメリカに付いて行ってあげるなんていったから・・・」


「そうだ! みんなミキが悪いんだぞ!」

「す、すみません。 なんてお詫びしたらいいのか・・わたし・・」

「毎回、ほんとに無茶ばかりして・・・」

「ほんとに、すみません。 って、え・・鋭二さん。 どうして、ココに?」

「どうしてもこうしてもないよ! まったく。 兄さんから電話をもらって自家用ジェットで飛んできたってわけさ」

「じ・・自家用ジェットなんてあったんだ・・・すごいね」

「そんな事はどうでもいいよ。 もう危ない事をしないでくれ。 ミキになにかあったらって思うと居ても立ってもいられないよ」

「ほんとうに、ごめんなさい。 軽率でした」

「ミキは、何度も危険な目にあってきたんだから、もっと気をつけなくっちゃね。 007なら2度死んでも大丈夫かもしれないけどさ。 ミキは生身の女の子なんだからね」

「は~い。 以後気をつけます」

鋭二に言われて流石のミキもすっかり、ションボリしている。


「でも・・・」

「うん? どうした?」

「早く【ミク】ちゃんを探さないと・・」

「ミキは、骨折してるんだから、おとなしく寝てなさい」

「えーーーっ、だってーー」

「ミ~キィー!」

流石に鋭二も切れる。

「だって、だって。 わたしの所為で・・・」

ミキの目に悔し涙が溢れる。


「ミキさん。 【ミク】のこと心配してくれてありがとう」

「秀一お義兄さん・・」

「【ミク】は、大丈夫ですよ。 あの娘の能力を考えれば、一人でも脱出する手立てを考えていますから。 それに、もうそろそろ行動に移しているかも知れない」


果たして【ミク】は無事に戻ってくるのだろうか・・・


次回、「未来ミク危機一髪」へ続く

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