第73話 ◆見られちゃった
◆見られちゃった
ポ~ン
『まもなく当機は、着陸態勢に入ります。 着陸までの間、化粧室のご利用はできなくなりますので、お早めにお済ませください。 また、シートベルトの着用をもう一度ご確認くださいませ』
ミキたちを乗せたジェット機は、もうまもなくニューヨーク空港に到着する。
『【ミク】ちゃんは、到着5分前になったら、自動的に再起動するっていってたっけ』
ミキは腕時計を確認する。
『ただいま、ニューヨーク空港の天候は晴れ。 気温は17℃です。 当機は途中の気流の影響で予定到着時刻より15分ほど早く着陸できる見込みです』
「えっ? 15分も早く・・・た、たいへん!」
ミキは未来ミクの体を揺すりながら、耳元で囁く。
「ちょっと、【ミク】ちゃん。 たいへんだよ、早く起きて!」
もちろん、タイマー起動の未来ミクは、ピクリとも反応しない。
「困ったなぁ・・・どうしよう・・・どこかに特別なスイッチでも付いてないのかなぁ」
ミキは、未来ミクの体のあちこちを眺めては触っている。
当然のことながら上瞼も指で上に引っ張って見る。
・・・
やらなきゃよかった。 白目である。
「う~ん。 そうだ。 確か初めての時って、お義兄さんが指をパチンって鳴らしたら【ミク】ちゃんの目が、すぅ~って開いたんじゃなかったっけ?」
パチンッ
パチンッ
ミキが剥きになって指を鳴らしていると
「お客様、どうかなさいましたか?」
フライトアテンダントが、未来ミクを覗き込みながらミキに話しかけてきた。
「あっ、いえ。 友達がぐっすり寝ちゃって、なかなか起きなくって・・・」
「あと10分ほどで、ニューヨーク空港に到着します。 きっと時差の関係でお疲れなんですね。 お客様、最後のほうに降りられれば、ゆっくりできますよ」
「そ、そうですね。 一番最後に降りるようにします。 アハッ、アハハハ・・・」
ユッサ ユッサ
「お~い。【ミク】ちゃ~ん。 起きてよーー」
ミキは、困り果てた顔で未来ミクを揺すり続けている。
『どうしよう。 困ったなぁ。 15分早いってことは、空港に着いてから10分しないと再起動しないんだよね。 最後に降りるっていっても間に合うかどうか。 下手をすると、騒ぎになっちゃうかも』
「お嬢さん。 お困りのようですね」
突然後ろから、男の低い声がした。
驚いて振り返ったミキは、その男の顔を見て更に目を大きく見開いた。
「あっ、アナタは・・・ 確か・・・」
「杉山ですよ。 覚えてましたか?」
「ど・・どうしてココに?」
「ちょっと取材がありましてね。 ただの偶然ですよ」
ミキの目に警戒の様子を見てとったのか杉山は、言葉を付け足した。
「それで、わたし達に何か用事ですか?」
「いいえ。 ただお困りのようでしたから」
そう言いながら、杉山は顎を未来ミクの方にしゃくりあげた。
「べ、べつに困ってなんかいません!」
「そうですか。 それならいいんですけど」
ポ~ン
『当機は、これから着陸態勢に入ります。 座席にお座りになりシートベルトをしっかりと、お締めください』
着陸を告げる機内アナウンスに、杉山も自分の席に戻っていった。
ふぅ~
『思わぬところに、とんでもないヤツがいたものね』
ミキは、大きなため息をひとつ吐くと少々泣き顔で未来ミクを眺めた。
キュウ~ン
微かにモーターが回り始めるような音がすると、未来ミクの瞑ったままの目が瞼の後ろで左右に僅かに動いた。
「【ミク】ちゃん、【ミク】ちゃん」
ミキの呼びかける声に答えるように、未来ミクの目が徐々に開き始めた。
「よかったぁ。 目が覚めた?」
「・・・もうすぐニューヨークに着くんですね」
未来ミクの目覚めの第一声は、やはりどうしても来たかった秀一のいるニューヨークの事だ。
「飛行機が予定より15分も早く着くんだって! 【ミク】ちゃんの目が覚めなかったら、どうしようかって思っちゃたよ~」
「ほんとうですね。 セットした再起動時間より、7分32秒05も早いです。 どこかに異常が無いか、セルフチェックします」
未来ミクの瞬きの回数が少しだけ増えたと思った瞬間。
「特に問題になるような故障箇所は発見されませんでした。 ただ・・」
「ただ? どうしたの?」
「外部から、強いX線を照射された形跡があります」
「なぁんだ。 それだったら、成田空港のゲートじゃないの?」
「いいえ。 それは荷物の方です。 このX線を照射されたのは、この飛行機でわたしがスリープモードに入っている最中です。 このX線に対しての妨害波をわたしは出していません」
「って言うことは?」
「わたしの体の構造を誰かに知られた可能性があります」
「な、なんですって? ひょっとしてさっき? 杉山が・・?」
次回、「産業スパイ」へ続く
◆産業スパイ
「ミキ様、わたしの体の構造を誰かに知られた可能性があります」
「な、なんですって? ひょっとしてさっき? 杉山・・?」
ミキは、杉山の席に目を向けたが、隣の男が新聞を広げているために影になって見ることができない。
「空港に着いたら、とっ捕まえて確かめてみなくっちゃ!」
そうこうしているうちに、ミキ達を乗せた飛行機は、ニューヨーク(JFK)空港に着陸した。
タラップが機体に接続されると乗客が一斉に通路に立ち塞がる。
「【ミク】ちゃん。 わたし達、最後に降りようと思ってたけど、あそこの男が体をサーチしたかも知れないんだ。 だから見失わないように後ろについて降りるよ」
「はい」
ミキと【ミク】は、混みあった通路に割り込むようにして、杉山の少し後からタラップを降りた。
JFK空港は沢山の人が行き交い、杉山の後を追うのが大変だ。
ともすれば、ちょっと人を避けている間に、見失いそうになる。
「【ミク】ちゃん。 わたしから離れないで付いて来るのよ」
「あのぉ・・ ミキさま」
「なに? 早くしないと見失っちゃうよ」
「わたしが、追跡した方が良いと思います」
「えっ? なんで?」
「わたしの体には、いろいろなセンサーが入っていますので、絶対に見失わないと思います」
「あ゛・・そうか・・ハハ じゃ、バトンタッチね」
ミキは少しほっとしていた。 なぜなら、こういう事は苦手なほうだからだ。
反対に未来(ミク)は、ちょうど良い間隔をあけ、杉山の後を追跡して行く。
ブランド品を扱う大きな店の角を曲がったところで、未来(ミク)は急に立ち止まった。
ドン
「痛たた。 ちょっと【ミク】ちゃん。 急に止まったら危ないよ!」
未来(ミク)の背中におもいっきりぶつかったミキは、おでこを擦りながら顔をあげて、小さく声をあげた。
そこには杉山が怒った顔をして、未来(ミク)の両肩を掴んで立っていたのだ。
「ちょっと、何するのよ。 離しなさいよ」
ミキが杉山を睨みつける。
「それは、こっちのセリフだ! 何故、俺の後をつけた!」
「だって、あなたが最初に、この娘の体をX線でサーチしたからじゃない!」
「X線? なんだそりゃ? 俺がなんでそんな事をする必要があるんだ」
「そ、それは・・」
「だいいち、X線なんて出す機械をどうやって機内に持ち込むんだ?」
「う~ん。 何か小さな機械。 そうそう、その胸のボールペンの中にでも隠してあるんじゃないの?」
「これか? これは確かにボールペンじゃないよ」
「ほら、ごらんなさい! とうとう正体を出したわね」
「バカ! これは商売用のボイスレコーダだ! いまじゃ取材には必須のアイテムだ」
「バ、バカとは何よ! それが、ボイスレコーダだって証拠がどこにあるのよ」
「ふんっ 良く聞いてろよ」
杉山が、そのペンのボタンを押すと小さな声が流れて来た。
『バ、バカとは何よ! それが、ボイスレコーダだって証拠がどこにあるのよ』
「ありゃ、わたしの声だ」
「だから言っただろ。 これは録音機だ!」
「でも、飛行機の中で、だれかがこの娘の体をサーチしたのよ」
「この娘がロボットだからか?」
「あ゛ーーー! やっぱり、ロボットだって知ってるんじゃない! 怪しいわ。 アナタ、ぜーーーーったいに怪しいわよ」
「おいおい、こっちの娘がロボットだって、大きな声で話していたのは、あんたのほうだろ!」
「なっ、そんなことあるわけないじゃない! ばかっじゃないの!」
「あのぉ・・ミキさま」
「なに? 【ミク】ちゃん」
「確かにこの人の言うとおり、成田空港でわたしの事をロボットだって、ミキさまが言ってましたけど」
「なんですって? 言ってないよ! わたしがそんな事言うわけないじゃん!」
「でも・・あっ、ちょっと待ってください。 その時の録音を再生してみます」
『【ミク】ちゃんの能力って凄いんだねぇ』
『なんの事でしょう。 ご主人様』
『なんのって。 ロボットなのに金属探知機に反応しないなんてサ』
「あっ」
ミキはその内容を聞くと、思わず手で口を塞ぎ、ガクッと床に膝を付いた。
「しまったーー! あの時かぁ・・・ バカバカ・・わたしのバカァーー」
「そうだ! おまえは、やっぱりバカだ!」
「あ゛ーーー くやしぃーーーー」
杉山に追い討ちをかけられ、ミキは地団駄を踏んで悔しがる。
「俺は忙しいんだ! もう行くから尾行したりしないでくれ。 取材に差し障るからな!」
「はい、すみませんでした」
未来(ミク)がぺこりとお辞儀をしながら、杉山に謝った。
ミキは床に両手をついたまま、しばらく放心状態だった。
「ミキさま。 早く秀一のところに行きましょう」
ピクリッ
放心状態のミキが反応する。
「んっ、ちょっと待って!」
「どうかしましたか。 ミキさま」
「うん。 お腹すいちゃって、動けないんだよ」
「まぁ・・・・」
****************
どうやら、杉山はあまり未来(ミク)には興味が無さそうですが・・・
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