第3話 ◆初登校

◆初登校


体が女になってしまったオレは、冬休み中に少しは女らしく振舞えるよう、母さんから猛特訓を受けていた。

まずは最大の難関だったのは下着だ。

そりゃあ、Hな本で見るのは男として当然問題ないけど、自分が身に付けるとなるとやっぱ変態に思えるんだよこれが。


しかもブラのホックって留めるのに腕が攣って大変。

先に前で止めてから後ろに回せばイイんだって。 母さん、そう言うことはもっと早く教えてくれればいいのに!

パンツも前の穴が無いのは、ちょっとね。

トイレだって最初は立ってしようとして大慌てサ!

仕方ないよな。 15年間も、そうしてオシッコをしてきたんだから。


スカートも股がスースーして、まったく馴染めない。

オマケに風が吹いて、裾がひらひらすると気になって歩けたもんじゃない。

女って、これでどうして平気でいられるんだろう?


「ミキちゃん。 もうそろそろ、歩き方も慣れてくれなきゃね。 ほら、まだその歩き方って男の子だよ!」

最近は母さんの厳しい指導が超ウザイ。

「うっせーなー。 オレは男だっちゅーの!」

「ほらっ、ダメよ。 そんな言葉づかいしちゃ。 すぐに怪しまれちゃうじゃないの!」

怪しいのかオレ?

「え~だってさ~。 やっぱ、オレ学校行かないで働くよ~」

「だめよ!! 中学は義務教育なんだし。 それに最低でも高校くらい卒業しなくちゃ就職できないわよ」

「あ~もう。 今日はヤメヤメ。 もうオレ部屋で寝るから」


気疲れして、2階の自分の部屋に戻るとベットの上に何やら大きな箱が置いてあった。

「んっ? 何だろ? この箱」

そっと箱の蓋を開けると、その中には富士見ヶ丘中の女子の制服が入っていた。

む~ぅ、そう言えば、明後日はこれを着て転校生として登校しなければならないのだ。

「うぉーー! 人格が破壊されるぅーーー」


そうさ、これからオレは、女の役を一生演じて行かなければならないんだ。

あぁ、いったいどうすればいいんだろ~。 とてもやって行ける自信がないよ~。


コンコン

頭を抱えていると、ドアがノックされた。

「ミキ。 開けるわよ」


ガチャッ

そう言うか言わないかのうちに、母さんが部屋の中に入ってきた。

「さっき言い忘れたんだけど学校の制服・・・ あら、もう開けて見たの? それじゃ、ちゃんとサイズが合うか着てみてくれる」

「・・・母さん・・ オレ・・本当にコレ着なくちゃいけないのかな」

制服を膝の上に置いたまま、ボソリと言った途端。

「何を言ってるの。 当たり前じゃない。 学校指定の制服なんだから。 ほらっ、さっさと今着てるの脱いで!」

オレは、ぼおっとしたまま、着ていたセーターとジーパンを機械的に脱いだ。

その下着姿のオレに母さんがテキパキと制服を着せていく。


「はい、袖を通して。 そうそう。 ふ~ん良く似合うわ~。 さすが母さんの娘ね」

何時の間にやら、娘と呼ばれ始めている。


「あのね、オレは息子だろ!」

「ハイハイ出来上がり。 ほら鏡見てらしゃい!」

正直あの日以来鏡を見るのは大嫌いになってしまったが、女としての自分の姿は、どうしても一度は見ておかなければならないだろう。

恐る恐る鏡を覗くと、そこにはちゃんと一人の中学生の女の子が立っていた。

「はぁ~。 それにしても悲しいほどにカワイイなぁ・・・ミキちゃん。 これからよろしくな」

思わず鏡の中の自分に向って話しかけている。


次の日、新しい学校に行くための準備を母さんに手伝ってもらった。

ブラウス、制服、リボン、女物のハンカチ、新しいカバン、教科書 etc

「あ゛ー いよいよ明日かぁ。 憂鬱だな~。 大丈夫かなぁ・・・」

「ミキちゃん、大丈夫よ。 外見は完璧なんだから。 後はお母さんが言ったことをちゃんと実行できればOKよ。 心配しないでお風呂でも入ってくれば」

「うん。 そうする~」

この憂鬱な気持ちもお風呂で、さっぱり洗い流そう。


カコ~ン

ザザーッ

「ふぅ~。 あぁ・・いい気持ち」

実はオレは長風呂派なんだ。

少しぬるめのお湯に長くつかって、ぼ~っとするのが好きだ。

でも、女の姿になってから、もうひと月ほど経ったが、いまだにお風呂に入ったときの自分の裸姿は馴染めない。


だってHな本を見てるのと同じじゃん! それも自分の姿なんだし、何だか変な気持ちだよ。

そういえば、母さんがリンスもしろって言ってたっけ。

女は朝髪を梳かして支度するのに時間がかかるって。 くそっ面倒だなぁ。

それでも時間を掛けてリンスをした髪は、とてもいい匂いがした。


次の日、オレは思いっきり早起きした。

だって支度にどのくらい時間がかかるかわからなかったし、緊張してあまり眠れなかったし。

何とか制服に着替えて、リビングに下りていくと母さんが髪を梳かしてくれた。

これも早く自分でできるようにならなくっちゃな。

そんな事を思いながら、朝食を軽く済ませて早めに学校に向かう事にした。


「じゃあ母さん、行ってきま~す」

「あぁ、ミキ。 クツ、クツ。 ほらっ、クツを間違えてるわよ」

「あっと、いけね」

これはいつも履いていた男物の運動靴だった。 今日からはこっちと。

白をベースにピンクのラインが入った運動靴。


クツはやっぱり自分の足にあったものじゃないとクツ擦れしちゃうから自分で買ってきたんだけど、お店の人がジロジロ見てたんで、恥ずかしくって最初に手にとったヤツにしちゃった。

(↑実は店員さんは、単にミキがカワイイから見てただけなんですけどね)

「それじゃ行ってくるね」

オレはバツが悪いのもあって、バス停に向かって駆け出した。

「ふぅ。 大丈夫かしらね、あの子。 ボロが出なければいいんだけど」

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