第5話

半年ほど経って、僕が苦いコーヒーを難なく飲めるようになった頃、彼女から連絡があった。

いつものように小田急線に揺られて帰社し、留守電に残された彼女のか細い

「会いたい」

という声を聞いた時は初めは夢かと思った。

彼女の声は少し掠れていた。

すぐに折り返し彼女にかけ直したが繋がらず、しばらくしてから連絡を取っても繋がらなかった。

深夜2時を過ぎた頃、彼女からの着信があった。

彼女は泣いていた。

「ごめんなさい。何も聞かないで」

彼女はただそう繰り返した。

僕は何も聞かない。だから会おうと言った。

結局、週末に会う約束を取り付けてその日は通話を切った。

悶々として眠れない夜に、久しぶりにコーヒーが苦く感じられたことを覚えている。


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