もち と 惑星

朝宮ひとみ

プロローグ

「降下シークェンス開始。プログラム、作動まで5、4、3、2、1、作動確認。……あとは着陸シークェンスまで、ちょっと休憩できるわね。」


 調査船のコクピットに座る女性が読み上げながら、手を止めた。休憩と言っても、ほんの一分か二分に満たない。すぐに地上が近づいて、地上の様子を確認し、必要があれば手動操縦に切り替えることになるし、そうでなくても、衝撃やら規則やら何やらで、席で決まった姿勢を保ったままで我慢することになる。



 地球から旅立った移民船団のひとつが、はるか昔にたどり着いたはずの惑星の一つ、ジロウ。元はジロウボシ(次郎星)といい、たどり着いた船団の多くが日本人だったことと、地球の兄弟のように発展することを願った名前らしい。

 惑星移住の歴史の教科書や細かい惑星図の備考欄に載っているし、早くから移民に成功した惑星であるため、名前や由来などを、覚えている人は少ない。まして、リゾート用惑星でも、資源発掘用でもない、ただ人が移っただけの惑星など、まさに星の数とは言わないが、数千はある。


 先の女性は調査船の船長だった。船の装備を把握し、必要なものだけをクルーに使わせて、着陸予定地の様子を確かめているところだった。


 予定地は、サクラガハマという海辺の近くにある宇宙港だった。しかし、地形図と照らし合わせても、港がない。座標が間違っているわけでもない。

 視界の端のほうに小さな漁船が並んでいるのが見えたが、もちろんそこにこの船が並べるわけがない。舗装や設備があるはずの場所は、ほじくり返されたように穴ぼこだらけで、とても着陸できそうにない。


 船長は、操縦の一番うまいクルーを呼んで、砂浜に降りられないか尋ねた。一応、様々な地形に降りられるようになっているし、砂浜ならダメージは少ない。変な場所に無理やり下ろすとか、海に不時着するよりはずっといい。クルーも了承し、船長の隣の操縦席に着き、手動操縦を開始した。




 しかし、調査船は、降り立つことなく、飛び去った。宇宙船が向きを変えたあたりから、男が一人落ちていく。それを現地の知性体が一体、目撃していた。知性体は、その柔らかな丸い体で男を受け止めた。男は動かないが、知性体には、この男が生きていることはわかった。

 サクラガハマの名の通り、波打ち際には桜色の殻をもつ貝が散らばっていたが、男の周りの砂は、色が多少くすんでいる以外は地球の砂浜と変わらなかった。知性体の淡い蒼に、真夏のような恒星の光が降り注ぐ。

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