私の記憶にある裏切り。そして復讐。

河咲愛乃

第1話プロローグ 十年前の悲劇

 私は家族と一緒にリンカサールに行った。コテージの部屋が隣同士になった同い年くらいの彼とはすぐに仲良くなった。それから彼を好きになるまでにそれほど時間はかからねかった。ずっと一緒にいたい気分だった。毎日日が暮れるまで遊び続けた。彼は青い大きな瞳に少し灰色のかかった青空のような水色の髪をしていた。身長は私と同じくらいで、話しやすかった。

 

 しかし五日目のことだ。真っ赤な太陽が照らしている夕方、頰を流れる汗をぬぐいながら必死に走っていた。なぜか今日に限っていつもより遅れてしまった。約束の場所に行くと、彼は変わり果てた姿でそこに立っていた。ボロボロの服にぐしゃぐしゃになった髪。そして真っ赤に染まった手。すぐにそれが血だと気付いた。私はあの鉄の匂いが大嫌いだからだ。私が駆け寄ろうとすると、それを止めるかのように彼は


「ごめん」


そう一言言ってダダダッと走って行った。その意味が全くわからなかった私はただボーゼンとそれを見ていた。今日の彼の後ろ姿はとてもちっぽけに見えた。ハッと我に帰って彼を追いかけようとしたが、もう遅かった。彼の姿わもうそこにはなかった。

 

その後、少し遊んでいたが一人だと何をやってもつまらなくて仕方がないからホテルに帰った。


「ただいま〜」


しかし返事は一切帰ってこない。出かけたのかなと思いながらリビングに入っていくと、そこには真っ赤な血に染まった両親が倒れていた。


「お母さん!お父さん!どうしたの!返事して!」


両親に駆け寄ったが、血の匂いに耐えきれず、驚きとショックのあまり私は頭が真っ白になりその場に倒れてしまった。

 


次に目を覚ましたのは三日後だったらしい。リンカサールの病院のベッドで眠っていた。目を覚ました私は少しぼーっとしていたが、両親の姿を思い出し、


「お母さんとお父さんは!?」


食いつくように先生に尋ねた。今まで笑顔だった先生の顔が曇った。これだけで両親が亡くなったことを悟らされた。


「お父さんとお母さんは残念ながらなくなってしまったよ。警察によるとどうやらこれは自殺に見立てた他殺らしい。犯人が早く見つかってくれるといいんだがね」


はじめの言葉は予想は知っていたがその次からの言葉に驚いた。「他殺」という言葉に恐怖を覚えた。そしてその恐怖は一気に怒りへと変わっていった。その時初めて彼の言っていた言葉の意味がわかった。信じたくはないが今までの出来事からはそれしか考えられないのだ。

 

 納得したつもりだったがあんなに優しかった彼がそんなことするはずがないと納得しきれず警察や周りの住民やホテルに聞いてみると、彼を犯人にしないための証拠を探していたのに、彼が犯人だという決定的な証拠を見つけてしまったのだった。

 

 それは、レコードテープだった。そこには決定的な瞬間はないものも、彼の叫ぶ声とその後の両親の悲痛な叫びが録音されていた。その前と後に何か言っていたが、聞き取ることができなかった。とっさに私はそれをカバンに入れ、走って病院に帰った。

 

私はその日のことを永遠に忘れはしないだろう。裏切られた悲しみを知ったあの日のことを。そして私から両親を奪った彼の大きな青い瞳を。

        




  


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